「おおー、よく来たな! アッシュにルーク!」

王座の肘掛をひとつ打ってピオニーは身を乗り出すように話しかけた。



キムラスカ・ランバルディア王国の使者として訪れた二人を目の前にして破顔したピオニーは

挨拶の口上まで受け、続きはにこやかに手を上げて制した。



「挨拶は受けた。これで堅苦しいのは終わりだ。よし、俺の部屋に行こう。そうしよう」



慌てふためく周りの家臣のを(半ば無理矢理)黙らせてから二人の肩を押して自室へと向かったのだった。













相変わらずの散らかり具合の部屋に通され座るよう促される。

どこに座ればいいのか分からず立ち尽くしている二人の目の前に丸いテーブルと椅子が運ばれてきたのでこれに着席しろということだろう。



ルークは久しぶりに訪れたピオニーの自室をそっと伺った。

――ブウサギが色んなものを引っ張りだしている気がする部屋。

数本の剣が無造作に置かれている。

以前と変わっていない。







変化があったのは……ブウサギだろうか。増えているような……?





「うわっ!?」





ブウサギのことを考えていたルークの足に、何か触れた。

慌てて見ると、ブウサギがふんふんと匂いを確認しながらまとわりついている所だった。



「ア、アッシュ……なんかブウサギにくっつかれてんだけど……」



そっとアッシュに顔を寄せて小さな声でアッシュに訴える。



アッシュはそれにちらりと目をやってただ一言。

「そうか。耐えろ」

「えええぇぇぇー……」



それに情けなく眉を下げてふとルークが前を見ると、ぎょっとした。

ピオニーがにやにや笑って二人を見ていたからだ。



アッシュはそれに気付いてるだろうにしれっとお茶を飲んでいる。



謎めいた態度が気になって仕方ないのに、それについてアッシュが何か問う様子はない。

ということは……問うのは自分しかいないのだ、とルークはごくりと唾を飲み口を開いた。





「へ、陛下……」



「んー?」



「なんでそんな笑ってるんですか?……いっ」



アッシュに思いっきり足先を踏まれ、ルークが目線で抗議すると何故か目線でたしなめられた(気がする)。

何が? と疑問を顔いっぱいに浮かべていると、回線で『直球すぎだ、バカが』と伝えてくる。



バカと言われてムッとして『バカってなんだっつーの!』と反論した所で、

正面から盛大に吹き出す音が聞こえ、ルークはあわててそちらを見てまたもやぎょっとする羽目になった。



陛下が目尻に涙が溜まるほど大笑いして、机を叩いていたのだ。



ルークは失礼だとわかりつつも、口をぱかりと開けたままそんなピオニーを見るばかり。

それを見てますますピオニーは笑いのスイッチが入ったようだった。









ひとしきり笑ったピオニーはお茶で喉を潤してから息を吐く。



「っはー、まったくおまえらは面白いな!!」

「はぁ……そう、ですか?」



まだくつくつと笑うピオニーはさも面白げに目を細めて、人差し指をすっと伸ばす。



「おまえらがどんなやり取りしてたか当ててやろうか」

「はい?」



ルークがなんで笑ってるのかと聞いたあとから、アッシュとの回線のやり取りまでをほぼ正確に当てられて

ルークは心底驚き「な、なんで!」と飛び上がりそうになっていた。



狼狽するルークとなんでもないようなアッシュの対比が面白い。

笑いの沸点が下がっている今ならなおさら。

再発しそうな笑いをなんとか飲み込んで、ぐしゃぐしゃとルークの頭を撫でた。





「仲良きことは美しきかな、だ!おまえら羨ましいくらいラブラブだな!!」



「ら……らぶ?」





ルークはカップを持ったまま、きょとりとした。

ん?とピオニーは疑問に思いアッシュを見るとそこまで露骨ではないが似たような反応をしていた。







(んん?)







はて、とピオニーは首を傾げた。

照れるでもなく憤るでもなく、ただ何を言われたか分からない、そんな反応はまったく予期していなかったのだ。





「おまえら……」

「はい」

「それだけ、目に見えてお互い好き同士なのに、まさか……自覚なし、か?」





「「はい?」」









ユニゾンアタックか――。 ユニゾンではなく正しくはダブルだが、ピオニーの頭にはそんな言葉がよぎったのだった。



















まだ気づいてなかった鈍感ダブル。
見たからにらぶらぶが伝わらないのは私の力不足…です……。





2011、2・28 UP