a ray of hope ―9―















鍵から光が溢れ出す。

呼びかけるように、誘うように。



カッと目を焼くような輝きを放った直後、そこにはゆらりと揺れるものがあった。







『ようやく…来たか…』



「早く来て欲しいならもっと分かりやすく呼びやがれ」







ゆらゆらと頼りなく揺れるローレライを睨みつつ言う。

殴ってやりたい所だが…―これは実体ではない。

既にローレライは音符帯にいるのだから。



幻の姿、ようするに影のようなもの。







『…そうだ。我は音符帯に還った。そして我が半身もまた、ここに……』



ゆらりと広げた腕らしき部分に抱えられるようにして現れた朱い球体。

…いや、球体が朱い訳ではない。

包まれているものが朱いのだ。

第七音素に包まれ、くるんと丸まったその姿。







―やっと見つけた。







そっと静かに、球体に触れる。

…暖かい。



「こいつは…生きてるんだな」

『…本当は乖離してしまうはずだった。そなたに第七音素と記憶を残して。ルークもそれを望んだのだ。

そなた…アッシュを生かしたいと』



「………」



ぼんやりした記憶が蘇る。自分の記憶ではないもう一つの記憶。











―ああ、俺は消えるんだ…―





ローレライはこれで解放できたのだろうか。青い光の譜陣がその証なのだろうか…?





―アッシュ…―



そっと、床に座らせて上半身を支えるように腕を回した。

それでもアッシュは瞼は閉じたまま。

青い、かお。



―…っ!い、やだ―



アッシュ。アッシュ…。自分が消えることよりもアッシュがいなくなる方が、怖い。



なぜだろう。





でも。



―お前がいなくなるなんて、駄目だ。イヤだ…!―



翠色の目から雫がこぼれ、もう1人の閉じられた翠の目に落ちた。







―アッシュ…。アッシュ、生きて……。







俺の… … あげる か ら……―













今の今まで思い出せなかったルーク記憶。

ここで半身の記憶は途絶えている。





『ルークはそなたに全てを与え、消えるはずであった』

「……」

『しかし……我は声無き声を確かに聞いたのだ』



「声無き声、だと?」



『我は第7音素そのもの。第7音素のみで構成されるレプリカの還る場所。

溶けゆく我が半身の思いは我に伝わる。そしてそれは我の意思。

生きたい、という思いを受け我はルークであった第7音素を集めた」



浮かぶ球体に目をやる。



『我を解放する以前に乖離してしまったものは戻らぬ。

よってこうして第7音素で包み、ゆっくりルークを回復することにしたのだ。だが…』



不自然な間にアッシュは顔をしかめる。

「…何だ」

うっすらと分かっていた。

ローレライが自分を呼ぶ必要があったことを。



『ルークの心の欠片はそなたの中にある。気付いているだろう。このままでは、目覚めぬ』

二人の色が混ざったような髪。

自分の中でひっそりと息づく感情。



「…俺はどうすればいい」

驚く程に心が静かだった。

ただルークを。ルーク取り戻したい。



『呼び掛け、ルークを起こせ。

本来の心が目覚めればそなたの中の欠片も自ずと本来の場所へと戻ろう。

…これはそなたにしか出来ぬ。ルークを起こせるのはアッシュ、そなたのみ』



暖かな球体に両手を伸ばす。



『自分の思いに気付いた今のそなたなら必ず出来よう…』

何もかも承知しているような言葉は面白くないが事実なので何も言わずにおく。







「ルーク…」



額を球体に押し当て呼び掛ける。

朱い睫が震えたが、それだけだ。

アッシュは目を閉じて自分と相手だけの繋がりを繋ぐ。







(ルーク)











(ルーク)











(ルーク)



















(…アッシュ?)















―繋がった。







(いつまで眠っている)

(え…)



(帰って、こい)

(…っ!)



ルークが動揺していることが手に取るように分かる。



(俺…帰りたい。でも……)



アッシュの居場所を再び奪うのが、怖い。







(認めてやる)



(え…?)





(……好きだ)



(!)

(だから、帰ってこい!ルーク!!)



第7音素が弾け周りが光に包まれた。輝きがおさまった後、そこには二人の姿。



「アッシュ…っ、アッシュ!」



縋り付くように首に腕を回したルークをなだめるように撫でる。

「俺も…!俺も……っ!そっか…俺……ずっとアッシュのこと……」







二人の思いが重なった瞬間だった。



















どれ程抱き合っていたのか分からない。

ただ、離れがたかった。



「アッシュ」



少し体を離して顔を見る。

「迎えにきてくれて、ありがとう」



さら、とルークの髪が素肌の肩を滑る。色は朱色。

アッシュのそれは本来の紅へと戻っていた。













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ようやく出会いました。。





2007 7・13 UP