本文へスキップ

林檎は苺で薔薇は小説・イラストを扱うファンサイトです。

お問い合わせはCONTACTよりお願いします。

わたくしがいたしますprivacy policy

わたくしがいたします 2


ファブレ邸のエントランスで白光騎士団の中心に入ると、騎士たちは大きい1枚の布をそれぞれの手に持ち、ぐるっと囲んで2人の姿を隠した。
それに面食らって「え?」と声を上げたのはどちらだったか。
騎士に「窮屈で申し訳ありませんが、陛下の御前までこのまま警護いたします」と言われ否とは言えず、シュザンヌの言った
「白光騎士団の中から出てはいけない」
とはこういうことだったのか、とアッシュは目を白黒させた。

粛々と入城し歩を進めていくものの、アッシュもルークも周囲がどのような状況なのかまるで窺い知れることはできない。見えるものは地面だけだ。
頭の上すらテントのように布が張られ一緒に動いている。
白い布だから光は通っているため、歩くことに問題ないが窮屈さは否めない。

(わっ)
(ルーク……! 大丈夫か?)
(うん、へいき)

毛足の長い絨毯に足を取られ前のめりに倒れかけたルークの腕を掴んだアッシュはほっと胸を撫で下ろした。
転んだ所で大したことにはならないと思うが、城にいる者たちの関心を一手に引き受けているだろうこの状況でさらに注意を引くことは避けたい。

もう自分たちがどこを歩いているのかも分からなくなった頃、騎士に「到着しました」と小さく声を掛けられて緊張が戻ってくる。

「おぉ、クリムゾン、シュザンヌ……と、その中はルークか? これは物々しいことだ。一体どうした、またルークに何かあったのか?」
「兄上様。ルークは誘拐によって他者を恐ろしく感じるようになりましたの」
「なんと……」
「……と、いうことにしておいてくださいましね。人払いをお願いいたしましたが、アルバインは同席するのですか?」

すると、アルバイン内務大臣は
「我が国の未来に関わることですので、同席させていただきます。それよりも私は白光騎士たちこそ席を外すべきではないかと思いますが」
と一息に言い、その上擦った声で向こうも緊張しているのだなとアッシュは思う。

「もっともです。元々お話の前に退室させるつもりでしたけれど。――ルーク、出ておいでなさい」

躊躇ってアッシュはルークと顔を見合わせた。
すっとほんの少し布と布に隙間ができてそこから出るのだと知れる。
ここで隠れていても何もならないのだと自分に言い聞かせアッシュは心を決めて先に出ることにした。
もちろんルークの手をしっかりと掴んでだ。

一歩踏み出す足がどうしようもなく重い。
早鐘を打つ心臓の音が耳に響く。
布を割り体を外に出しそこで一瞬足が止まったが、意を決して掴んだ手を引いた。
ルークは何も警戒などせず引かれるまま、するりとアッシュの横に立ち、不思議そうに周囲を見て、母と父を見てパッと笑う。
アッシュはその間、王を見ていた。久しぶりに見る伯父は、見たことも無いくらい驚愕している。

声もなく凝視されている間に白光騎士達は退室し、がらんと広い部屋には6人だけが残った。

「シュ、ザンヌ……」
「はい」
「ルークは、双子であったのか……?」
「いいえ、兄上様」
「へ、陛下、まずは、どうぞお座りくださいますよう……」

急速に顔から色が失われつつある主君へ動揺も露わにアルバインが椅子を進める
と機械仕掛けのようにインゴベルトは着席した。
首を振り額に手を当てる。その様子だけでいつ倒れてもおかしくないような有様だ。

「皆、着席せよ。……長い話になりそうだ」





「驚かせてしまいましたこと、心よりお詫びいたします」
「クリムゾン……。あぁ、近年まれに見る衝撃だぞ。はて、さて。お前に愛人なぞおったか? それにしても見たところ2人は瓜二つではないか。シュザンヌ、本当は双子を設けておったのに預言にないことを恐れて隠していたのではないのか?」

受け流し切れない衝撃に首を振ってインゴベルトは質問を重ねる。
もちろんクリムゾンの身辺はシュザンヌを降嫁させる時に全て調査されている。
同年代の庶子などいるはずもないし、異母妹の体の弱さも承知している。
わかりきっていることでも聞かずにはいられないのだろう。
クリムゾン、シュザンヌ共に否と答えたことでインゴベルトはさらに唸った。

「では、ではどういうことだというのだ……。偶然道端で拾ったとでも言うのか? ルークとそっくりな赤髪緑目の子供を? ……そんな訳あるまいに!」
「もちろん、そんな偶然はございませんわ。ルークが誘拐されて帰ってきたとき、一緒に帰ってきたのです」

このシュザンヌの言葉でさらにインゴベルトは頭を抱えてしまった。
この期に及んで訳の分からないことばかり言うシュザンヌのことが恐ろしくさえ感じ始め出す。
平たく言えば――狂ったのかと。
息を詰めながらシュザンヌを見ると、その目は澄んでいて、じっと真摯に見つめ返してくる。
努めて平常心を取り戻そうと息を長く吐く間、シュザンヌもクリムゾンも何も言わずただただ静かに見つめるだけ。
インゴベルトの頭は急速に冷静さを取り戻していき、しっかり頷いた。

「頭ごなしに否定しても始まらんか……。良い、最初から申してみよ。今日はこれより後に予定を立ててはおらぬのでな」

暗に納得するまで帰さないと含ませたそれに、むしろシュザンヌはにっこりと微笑んだ。






2017.6.25