「どうして気がつかないんでしょうねぇ、まったく」
ここまで事態をややこしくした張本人に問う。
「だ、だって分からなかったから…」
「ほぅ?好きという感情が分からないと?」
じりじりとイイ笑顔でジェイドが近づく。怖い。これは怖い。
「そっそれくらい分かるって!馬鹿にすんな!
好きは分かる…俺はガイもナタリアもティアもアニスも、もちろんジェイドだってちゃんと好きだから…!
………でも」
「でも?」
「その、皆への好きと…アッシュへの、がなんか違う、から…」
好きは好き、だと思うんだけど、と言いつつ首を傾げる。
ふぅ、と溜息をつく。
「やれやれ…これではいつ気がつくか分かりませんね。ルーク?」
「だ、だって…!何に気がつけばいいのか分からない…っ!」
そんな切なそうな顔をして。
周りは皆気がついているのに。
「ガイも、教えてくれない…」
「そうでしょうね。ガイは貴方が自分で気付くまで何も言わないでしょう。
…しかし私はもうそろそろ教えてもいいんじゃないかと思います」
「……え?」
「そろそろ私も我慢の限界ですしね〜」
いや、明らかに限界じゃないだろ、と言う言葉をなんとか飲み込んで問う。
「教えて、くれるのか」
「はい。貴方はアッシュを」
バンっ
「こんの眼鏡…っ!」
「おやー本人が来ちゃっいましたねぇ」
「あ、アッシュ!?なんで…」
「回線が繋がっているだろうが!」
ジェイドの言葉に混乱していたからかルークはまったく気がつかなかった。
言われて見れば頭が痛い。
追い出すようにされたジェイドは出る寸前に。
「それでは頑張って下さいね、ルーク♪」
と言った。それはもう、いい笑顔で。
ドガァンと激しく音を立て扉が閉ざされる。
「あのクソ眼鏡が……っ」
「ァ、アッシュ」
扉を破壊しそうな勢いで閉じ、そのままじっと立ったままのアッシュに呼びかけた。
「アッシュ、アッシュ」
「……なんだ」
「アッシュが、教えてくれるのか?」
「…何を」
「聞いてたんだろ?なぁ教えてくれよ」
アッシュがゆっくり振り返って。
(あ、教えてくれるんだ)
そう思ってルークは側に歩み寄る。
まさか近付いてくるとは思わなかったのかアッシュは怪訝そうに見やったが、ルークはそんな様子を気にするそぶりもなくアッシュの右手を取った。
「……?」
その手を自分の頬へと。
「な…」
絶句するアッシュと違いルークは目をつむって、ほぅ、と息を吐く。
「なんで、こうしてみたいって思うのかな……」
「……」
「あっ!ごめ…っ」
自分のしていることが恥ずかしいと自覚してパッと手放す。
追い掛けるようにアッシュの指がルークの顎にかけられて。
「教えてやる」
「…うん」
「お前は、俺を」
「…アッシュを?」
答えを言うはずの唇は同じそれと重ねられ、音は相手へと吸い込まれてしまった。
ふっと離して。
「こういうことをしたいと……つまり愛しいと、思ってんだよ」
何をされたのか、言われたのか分からない感じでポカンとしていたルークだが、理解した途端にボッと頬を赤くして口を押さえた。
「な…っ、え、ぇぇえっ!?」
アッシュはフンと鼻を鳴らして、気付くのが遅ぇんだよ屑が、と。
(い、愛しいって…あ、あい、愛してるってことだよな…。俺がアッシュを)
「…愛してる……」
言葉にしてみると不思議に馴染む。
あぁ、そっか。そうだったのか。
「その…アッシュは?」
未だ体がほてったままだがこれだけはどうしても聞きたい。
じっとルークを見ていた目が、ついと細められる。
「分かんねぇのか?」
そして2度目の接触。
――アッシュの思いは唇の動きで、伝えられた。
にぶにぶるーく。
2007 10・27 UP