雨は、嫌いだ。
ザァザァ降り続ける音に飽いた。もう何日聞いている?
数えるのも馬鹿らしい。
そんな思考に陥ることすら、馬鹿らしい。
窓の外は灰色。ガラスを伝う雫だけが、透明。
街の空気は重く沈み、続く雨のせいか空気がどことなく濁っている気さえする。
それはきっと自分もそうだから余計に感じるのだろう。
分かっている。が、気分を無理矢理浮上させる気も端からない。
特に意味もなく冷め切ったコーヒーにちらりと目をやる。
その視界の隅に入るものがあった。
「お邪魔してすみませんが、ルークを知りませんか」
「………」
不本意とはいえ、同じ宿にいるのだ。雨のせいでお互い足止めを喰らっているのだから仕方がない。
青い軍服が所々群青色になっている。それは外に出た、ということだ。
こんな雨の中?何の為に。
しかし、それが質問の答えなのだろう。
「…………知らん」
これ以上の答えは持ち合わせていない。
返事は返した。なのにヤツの視線は以前として俺に向いたままだ。
「…何だ」
窓の外を見つめたまま投げやりに問う。
いつもなら無視をするのに。雨は調子が狂う。
「きっと、泣いています」
誰が、など。
そんなこと聞く必要もない。
「…それがどうした」
「いいえ。別に何も」
嘘くせぇ。
それで気が済んだのかヤツはどこかへ行った。
そんなこと俺に言ってどうする。
気分が悪い。
あの言葉を気にする自分がいる。
あいつの居場所など回線を辿ればすぐに分かるのだ。
俺のとった部屋にいる。
舌打ちと共に立ち上がって、歩く。
何故、自分はそこへ向かおうとしているのか分からない。そこへ行けばこの気持ちも分かるような気がした。
「…屑」
「……ぁ」
やはり、いた。いないなど有り得ないのだが。
ベットに顔を埋めるよう床に座り込むレプリカの手には俺の長衣が握られていて、眉間に皺が寄る。
「ご、ごめん。アッシュ…。勝手に入って………っ?」
パっと手を離した手が彷徨う。それを掴む。
「俺の服は、そんなに安心するか」
掴んだ腕が震えて、ごめん、と小さく呟く。
俯いた顔を顎を掴み上げさせるとやはり泣いていたのだろう、情けない顔だった。
「見な……で…」
「あ?」
「見るな…よ、今……変な顔、だから」
視線を外さないまま言われても、何ら説得力がない。
「いつものことだろうが」
「…ひで……」
酷ぇな、アッシュ。
その酷いやつに縋り付くお前は何だ。
頬にあたる朱色の髪が鬱陶しい。
耳にあたる不規則な呼吸が煩わしい。
ただ、暖かい。
雨は、嫌いだ。
思考が雨に支配されるようで。
情緒不安定な赤毛ーズ。
Color title…white 「きっと、泣いています」 お題サイト…リライトさま
2007 8・28 UP