メイディッド …下…















(う。ヤバい……どきどきしてきた…)



手に持っている箱を体の後ろに隠す。なんとなく隠したい気分だったから。

こんこんと控えめなノックに静かな声が返ってくる。

「開いている。入れ」



ゆっくり扉を開けると、本を手にベッドに腰掛けているアッシュがルークを見ていた。



「あ…ごめん。邪魔、しちゃった?」

「いや。別にいい」



「……」

「……………」





(か、会話が……っ)





続かない。

いつもルークが喋り、アッシュは聞いていることが多いのだから当然なのだが。



「え、え〜と…」

体の後ろにあるものを渡したいのになんだか恥ずかしくて、わたわたしてしまう。

どうやって渡す?っていうか何て言って??どのタイミングで出せばいいんだ??

頭の中がグルグルして訳が分からなくなってきていた。







「……お前…」

「ふぇ!?な、何!?」



何かに気がついたようなアッシュがこちらに来いと言わんばかりに手招く。

近くに寄るその一歩ごとに鼓動が跳ねて、アッシュにまで聞こえるんじゃないかと心配になる。

アッシュの座っている正面までゆっくり歩いて。



「何…?」



呼ばれた意味がよく分からなくて首を緩く傾げてアッシュの顔を見る。

すると。



ごく自然にルークの腰に片腕を回して引き寄せられた。

アッシュは座っているので、ルークの胸の辺りの当たるか当たらない所に顔がくることになる。

「え、ア…アッシュ……っ!?」

ぎゅっと抱きしめられる訳でもなく隙間がある訳でもなく。



いつもなら嬉しくて自分から抱きついてしまう状況だが、今は。

(き、聞こえる…聞こえちゃうって…!!)



さっきからどくどくと煩い鼓動が。

こんなに近くに顔があったら、本当に聞こえそうで。



「〜〜〜〜っ」



自分の意思に反して顔がどんどん赤くなっていく。





ルークにとっては長い時間、だが実際はほんの2、3秒顔を近づけてアッシュが離れる。

「やっぱりお前か…」

「だ…だか…ら、何が…ってば…」



「甘い匂いがする」

「…!!」



自分に匂いが移っていることに気がついていなかったルークは袖に顔を押し付けてみる。

「……?甘い匂い、しないよ?」

「そういうのは自分じゃ気付かねぇんだよ」

「…嘘」

「嘘じゃない」



「……今日、朝早くからどこへ行っていた?」

「え!?えと…その……」

なんだか素直に言えなくて。もごもごもご。



「…俺に言えないような所に行ってきたのか?てめぇは」

少し不機嫌そうに立って、眉間に皺を寄せ見つめられる。



(ヤバい。これはヤバい。言わないとマジで不機嫌になる…っ)



「あの、これ……」

おずおずと隠していた箱をアッシュに見せる。

「何だ、これは」

「開けて、みて」



アッシュの手に押し付けるように渡す。

仕方なしに結ばれた飾り結びを解いていく。

これはアニスに言われて四苦八苦して結んだものだ。

『え?ケーキをそのまま渡す気!?やっぱプレゼントには装飾が必要だよ〜。ほらほらルーク選んで選んで!』

とか言われたから。



そして箱を包む柔らかな包装も外し、箱を開ける。

ふわりと香る甘い匂いが溢れ出した。





「これは…」





それはチョコレートケーキだった。

小さなホールケーキで、チョコレートでコーティングされ、さらにチョコレートを削ったものが振りかけてあった。



「昨日のケーキ、アッシュ美味しいって言ってたから……あの…」

「作ってくれたのか」

「うん。アニスに教えて貰いに行ってたんだ。…あんまり上手くできなかったけど…」



ルークの言う通りコーティングは所々薄いところがあり、削ったチョコレートでカバーされている。

付きっきりで教えてくれたアニスのおかげで初めての割にはよく出来た。

一緒に作ったらお手本にもなるし、折角だからと同じものを作ったアニスのケーキはそれは美しいものに仕上がっていて、正直ちょっと凹んだが。

『…アニスのキレーだな…』

『なーに言ってんの。ルークのにはアッシュへの愛vがこもってるじゃーん!大丈夫!ちゃんと美味しそうだから☆』

…とアニスのお墨付きを貰ったのだが。

不安でしょうがない。





「食べて……くれる?」

そっとアッシュを見る。

「あぁ…だが」

嫌なのかとドキっとする。











「……切り分けるものがない」

「あ」











やや間を置いて二人で笑った。



なんだか緊張が解けて、ケーキをアッシュの手から取ってベットの上に置きそれからアッシュに抱きついた。

「ふふ、アッシュ〜好き〜〜」

「まったく…。どういう思考回路しているのか一回覗いてみたいもんだな…」

「え〜?覗くも何も回線で筒抜けじゃん」

「…………(そうだった)」





アッシュはルークのしたいようにさせていたが、ふと耳元に口を寄せ。

「甘い匂いがすると言ったが」

「?」

「お前は」



いつも甘い匂いがする



「!!」

ぺろ、と首筋を舐めて、顔を見てくく、と笑うものだから。



「ちょ、な…!?」

一気にまた顔が赤くなってしまった。

「何、それ…っ」

「事実だろう?」

「〜〜〜…っ」



アッシュの肩に頭をぽふっと乗せてもたれ掛かる。

背中に手を回して顔を肩に押し付けて。





「もうちょっとしたら…ケーキ食べてくれよ、な」





小さく小さく、そう呟いた。















最後の方なんだかアッシュがとんでも発言してますが(笑)

結局はらぶらぶな2人です。

2006、8.18 UP