「最後……っと。やたら数が多かったな。みんな、大丈夫か?」
小型モンスターの群れに正面からぶつかってしまったため、倒しては次、また倒しては次、という風に時間だけはやたら食ってしまった。
今となっては手応えなどない敵だったが、如何せん数が多すぎた。
左右背後から飛びかかって来られるのでユーリでさえ正直閉口してしまった程だ。
ちなみにユーリ自身は細々した傷があるものの、回復が必要な程ではない。
「なんともないです。皆は平気です?」
「ウォン!」
「別になーんともないわ」
「ぼくもー。ちょっと疲れただけー……」
「おっさんも問題なしよ〜」
「支障ないよ、ユーリ」
「怪我は、ないわね」
多少へろりと消耗が声に出た返事が返ってきたが、全員特に大きな怪我はしていないようだとホッと胸を撫で下した。
武器を納めてぐるりと仲間を見回すと、ジュディスが服の上から腕で胸を覆っており首を傾げた。
「ジュディ? どうした?」
「あぁ、心配しないで。怪我じゃないの。ちょっと腕をどけると多分よくないことがあるの。それだけよ」
ジュディスはいつも通りにこやかに答えたが、左腕は両胸を押さえたままだ。
よくないことって何が、と、問おうとした声は「うっわぁぁあ!」というカロルの声に遮られた。
「ちょ、ちょっと! ジュディス! 背中っ、背中の服っ途中からないよ!?」
「あら、やっぱり。持って行かれた感じがしたのよね。カロル、どうにか括れないかしら?」
「多分ムリだよこれ。背中が丸々出てるもん……。ねぇ、リタ。これ、どこか引っ張れるの?」
どうにかできないかと手をうろうろ空中に彷徨わせていたカロルは、比較的近くにいたリタに助けを求めた。
それに応じてトコトコ近づいたリタは「う、わ……これは無理ね……」と呟いた。
「押さえたままでは動きにくいね。でも、荷物は宿に置いてきてしまっているし……。誰か替えの服を持って来ているかい?」
フレンの言葉に全員首を振った。町の近くの採掘ポイントに行くことが目的だったので、必要最低限の荷物にか所持していないのだ。
「でも、それじゃ左手使えないです……。せめてわたしの上の服を……」
「ありがとう、エステル。そうね、気持ちだけ頂くわ」
多分、ジュディスには小さくて入らない……と全員が思ったが、懸命にも誰も声に出さなかった。
エステルは「本当にいいんです……?」と不安そうだ。
カロル、リタはそもそも体が小さいので流用不可能。
フレンは鎧なので、問題外。
おっさんの上着はユルユルすぎて、逆に目の毒になる可能性がある。
となると……。
「リタ。お前なんか止められるもの持ってるか?」
「ピンでいいならあるわよ。安全ピン」
胸ポケットから出された数個の安全ピンを確認してユーリは自分の上着を脱いだ。
「ユーリ?」
「これしか選択肢がねぇだろ」
差し出された服と帯に少し目を見張ってから、ジュディスは心得たように笑んで右手で受け取った。
「ありがとうユーリ。助かるわ」
「リタ、前、止めてやってくれ。まさか俺がやる訳にはいかねーからな」
「ユーリ上半身裸でいる気です?」
「ま、俺はそれでも別にいいんだけど」
「ダメだよユーリ。風邪を引いてしまうよ」
「……って言うだろうと思った。レイヴン上着貸してくれ」
「はいはい……って、言う前に掴んでるじゃないのよ! 破れる! 引っ張らないで! 今すぐ渡すからっ」
ユーリがレイヴンの上着を着込み、長い裾を前でぎゅっと結んでいる間にジュディスはリタの手を借りて衣服を整えた。
前開きデザインの服なので、胸は問題ないが少し開きすぎだ。リタが数本のピンを使って下から止めていった。
「いいわよジュディス。どう? 動ける?」
「ええ、問題なさそう。帯もあるし、肌蹴ないと思うわ。ありがとうリタ」
「終わったー? もうそっち向いていい?」
「どうぞ」
律儀に逆を向いていたカロルは振り向いて、先ほどとは違う意味で「うわぁ」と声を上げた。
「ジュディス似合ってるよ! ユーリは……あんまりしっくりこないね。変じゃないんだけど、なんでだろう?」
「まぁ、そうだろうな。なにしろおっさんの服だからな、似合っちまっても困る」
「あーそうだね」
肩をすくめるユーリと、うんうんと素直に頷くカロルにレイヴンはがっくりと俯いた。
「なに、なんなの……。おっさんの服がダメなの? それとも俺がなの? おっさんいじめ、良くないわよー!」
「鬱陶しいわね……」
「ひどい! リタっち!」
やいのやいの言いながら一行は町に戻っていったのだった。
「困ってるなら言えよジュディ」(溜息)
「あら、片腕での戦えるもの」
「あたしたちが、目のやり場に困るのよ!」
2013、10・5 UP