「ふぁあああ…ねむ……」

「おっさん、寝るなら1人で寝てくれ」

背後からのしかかるようされて、ユーリの座った椅子がギシッと嫌な音を立てた。



「えー、一緒に寝ようよ」

「断る」

「なぁによ、何もしないわよ?」



ユーリは肩に乗ったレイヴンの顔をぐいっと押し、ふと違和感を覚えて振り返ろうとするとレイヴンはパッと離れて

「いーわよ寝るわよー」とか呟きながらベッドへ向かった。



「……おっさん、ちょっと部屋出るけど、まだ寝るなよ」

「なにそれ……。はいはい、約束はできないけど頑張るわ〜」













「入っていいか?」



ノックと共に声を掛けると中から扉が開けられた。



「あら、ユーリ。こんな時間に珍しいわね」



ジュディスが扉から体を離し中へと迎え入れた。



「あ、ユーリ。どうしたんです?」

「あれ、ユーリだー」

「カロル? お前なんでここに」



するとカロルはちょっと不満そうに口を尖らせた。



「フレンが見回りにいっちゃってさ、部屋にいてもつまんないから遊びにきたんだよ」

「あんたもやる?」



見ればカードで遊んでいるようだった。



「いや、今はいい。……なぁリタ。最近、おっさんお前になんか言ってるか?」



リタはきょとんとした顔をして、何のこと? と首を傾げた。

その拍子に髪から水滴が落ちる。



「心臓魔導器の調子とか」

「ううん、聞いてないわ。……何、なんか変なの?」

「多分、な。あれは何か隠してるぜ」



リタは、まったくもう、と呟いてカードを置いて立った。



「えっリタ、髪乾かしてから行きなよ! 風邪引いちゃうよー!」



カロルが慌ててその辺りにあったタオルを持って近づいたが、リタは手をぷらりと揺らして受け取ろうとはしない。



「大丈夫よ、いつも引いてないじゃない。めんどくさいし」

「いつもより拭いてないじゃん! ほらタオル」



タオルを出すカロルと受け取ろうとしないリタの横から、手が伸びてリタの頭にのせられた。



「ちょっ、ユーリ……っ」



ユーリから見ても髪はぐっしょりと濡れていたのでガシガシ拭く。



「あ、ダメです、ユーリ! もっと丁寧にしないと髪が傷んじゃいます!」

「止めるのはそこなのね」



一通り水気は取れたのでユーリはタオルをテーブルに投げ、ジュディスはリタの髪を直していた。



「あら、ずいぶん水気なくなってるわ。よかったわね、リタ」

「よっよくないわよ!もうっ行くわよ!」









「あー、寝るなっつったのに」



ユーリが部屋に戻るとレイヴンは既に目を閉じており、近づいてみると安らかに眠っているとはほど遠い表情をしていた。



「起こさなくていいわ。起きたら誤魔化そうとするんだろうし」



リタが躊躇いなく上掛けをひっぺがし、ユーリがレイヴンの服を緩めた。

触れた肌は異様に熱く、発熱していると知れる。

リタは魔導器の操作盤を呼び出し叩き始めた。



「まったく、この子に無茶させすぎよ」



レイヴンを気遣ってか、小さくつぶやく。



「なんか壊れかけてるのか?」

「壊れてない。だけど、いつもフルパワーが出るようにされてるからやっぱり無理があるのよ。……魔導器触ってみて」



何気なく手を伸ばしすぐに離した。



「レイヴンの体温……にしては熱すぎるな」

「熱はこの影響だわ。この子の負荷がレイヴンの体にかかってる……。この子はエアルを使わない。その分レイヴンのエネルギーを使ってる。

生命を維持させるには相当の力が必要だもの……当然といえば当然よね……。でもこれじゃあんまりよ」



話しながらも手は止まらない。



「この複雑なのをシンプルにすれば力は分散しないはず……でも、強すぎてもいけないし、ここは変えられないし……。

あぁもう、どこかにあるはずなのよ」



ああでもないこうでもないと呟きながら指を動かす。

しばらく時間が掛かりそうだと判断し、ユーリは椅子に座った。













「これをこうして……できた!」



フォン、と1回レイヴンの魔導器が光る。

リタはレイヴンの様子を注意深く見守っている。何かがあればなんとかしてみせる、そんな気迫を感じた。



「……大丈夫そう、ね」

「あぁ。あとは休ませれば回復するだろ」



ふっとリタの肩から力が抜けた。

リタにとってこの魔導器は未知のものだ。

命と密接に関わる分、どうしても緊張する。



「ちょこちょこメンテナンスが必要だわ……」



そんなリタの肩を叩いてユーリは、振り返った。



「終わったかしら」

「大丈夫です?」

「レイヴン大丈夫?」



扉の隙間からそれぞれ顔を覗かせて口々に問いかけてくる後ろから「……何、してるんだい?」というフレンの声が聞こえて、リタは少し笑った。



皆がそれぞれの部屋に戻り、ユーリだけが残った。

寝ようと思い上着に手をかけた時、ふと衣擦れの音が聞こえ、そちらを見る。



「……ユーリ」

「レイヴン? 気がついたのか」



幾分掠れた声が疲労具合を物語っている。

腕を重そうに持ち上げて額に乗せた。



「あーやっちまったわ……リタっちにお礼言わないとね……」



「ん? あの時起きてたのか?」

「途切れ途切れ、ぼんやりと、ね。音だけ聞こえたけど、体はちっとも、動かなかった、から……」



そのままレイヴンは再びすうっと寝入ってしまった。

体は回復を求めているだろうから朝までは起きないだろう。





そう判断してユーリもベッドに潜りこんだ。




















信頼してるだけに、本当の弱さを見せることにためらってしまう……そんなおっさん。




2013、8・30 UP