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ルークと兄貴の夏休み


※実際は縦書き2段です。webで読みやすいよう内容は変えずに加工しています。



アッシュとナタリアを連れて戻ったら、行き会った面々がおかえりと迎えてくれた。
その反応は様々で、後ろ姿を見て仲間と会えたのかと声を弾ませる者や、ルークと同じ顔だと気付いて忙しなく両者を見比べる者、おかえり……まで言って固まるものなど本当にいろいろだ。
歓迎と困惑という微妙な空気だな、と連れ帰ったメンバーは感じ、さてどうしたものかと思案したのだが後ろからかけられた明るい声でがらりと雰囲気が変わった。

「あっルーク! ん? 新しい鏡映点の人か?」
「あ……うん、俺たちの仲間なんだ」
「そっか。よろしくな! 俺ロイド・アーヴィング!」
「わたくしはナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアと申します。よろしくお願いしますわ」
「ナ、ナタリア、ルツキ……ラ? な、なげー…」
「ふふ、ナタリアとだけ覚えてくだされば結構でしてよ」

朗らかに笑うナタリアからアッシュに目を移したロイドは目を真ん丸にし、

「ルークじゃん」

と口にした。
直球でいった! とやりとりを見ていた連れ帰ったメンバーと残っていた面々全ての心の声が一致したのは言うまでもない。

「あ、えっと、いや、まぁそうだけどぉ……ちょっと違うっていうかぁ」
「あらアニス。ルークとアッシュは同じ顔ですもの。間違ってなどいませんわ」
「ナタリア……君は相変わらずだな……」

ぼかそうとしたアニスに訂正を入れるナタリアにガイが脱力し、ルークが意を決したように一歩踏み出す。

「……え、と、アッシュっていうんだ。俺の、えっとあの、俺の」

そこではたとルークは気付いた。
アッシュと決めたあのことを仲間に欠片も言っていないことに。
気付いてしまえば声は喉に貼り付いたように出てこなくなってしまった。
不自然なところで停止したルークを不思議そうに見るのはロイドだけではなく何も知らない他の世界の者もまた同様だ。

「双子の兄だ」
「そう、兄貴!」

アッシュが小さく言ったことに勇気付けられたルークの声が高くあがりわんわんと響きロイドは驚いて耳に手を添えた。

「え、そりゃ見たらわかるんだけど……。なんでそんな気合いがいったんだよ。それにどうしたんだ? みんな」
「え?」

ロイドの視線を追って振り向くと仲間たちが俯いたり、天を仰いだり、しゃがみ込んだり、顎を外しそうになっていたりした。ルークはあわてて仲間の中に入りこうなった経緯(けいい)をこしょこしょと話すとそういうことはここに着くまでに言っておけとガイに小突かれたが、すぐに立ち直った面々が笑う。

「いやぁ、悪い悪い。すんなり兄だってアッシュ言ったことにちょっと驚いてしまってね。いろいろあったものだから」
「ほんと! まさかアッシュが自分から言う日がくるなんてね〜。ほんとケンカばっかりしてた二人でさぁ」
「いやぁ〜丸くなったものです。世界を飛び越えた甲斐があったということですねぇ」

それからは色々質問などあったが、特に疑問なども覚えられずアッシュとナタリアは迎えられた。
次の日にルークがミリーナのところへ向かうとそこにはアッシュの姿があり、他の鏡映点たちもちらほら姿が見える。何をしているんだろう、と耳をそばだてると聞こえてきたのはこの世界のことだ。
どうやらアッシュはこの世界のことを知りたいらしい。

(この世界、何もかも向こうとは違うもんな……。俺も最初ミリーナとイクスにいろいろ聞いたっけ)

ぼんやりとミリーナとコーキスと話すアッシュの後ろ姿を眺めながらこの地にぽんと放り出されたことを思い出していた。
気付いた時には一人で、その後合流したジェイドと二人でしばらくこの世界にいた。時間と共に仲間たちが次々と現れてもここではレプリカであると明かさず過ごしてきた。
アッシュに会いたいという気持ちを持っていなかった訳ではないし、むしろこの世界でなら体が消えないのであれば、もっと話ができるのではないかと眠れない夜に何回考えたかわからない。
でも実際そうなった時どうするか。そのことについてはあえて考えないようにしてきたのだ。
それが、まさか、アッシュから双子の兄弟にすると提案されるなんて……。
まったく普通に同じ場所にいて、アッシュが目の前でこの世界の仲間と話している。そう思っただけで自然ルークの顔は綻んでいった。

「ルー、ク様?」
「どうしたの? ルーク。どこか痛いの?」

嬉しい気持ちで三人を眺めていたルークは突然コーキスに驚いた声をかけられてびっくりして戸惑った。ミリーナまでもが心配そうに見ている。

「え、なんで?」
「なんでって、ルーク様……。泣いてるよ……」

そう言われて慌てて頬に触れてみると確かに濡れている。
そういえば妙に視界が揺れるなとは思っていたのだ。

「あれ、おかしいな……。なんで俺……」

信じられない思いで指先から視線を外し顔を上げると心配そうに見る二人と目が合う。アッシュもまた、半分振り返っており同じ色同士が噛み合った。
そうすると、さらに頬を伝うものが増えたようで、一層ミリーナの眉を下がっていく。
理由にもならない何かを口にし、ルークはその場を離れた。

ばたばたと足音も抑えられずめちゃくちゃに走り、人気のない所で止まる。顔は壁に向けられ例え通路を通るものがいても流れるものには気付かないだろう。
だと言うのに。

「……んで、来るかなぁ」

誰が近づいてきているかなんて考えるまでもない。体を構成する全てが、音素もないのに、空気が、びりびり響く。

「逃げるからだ。さっきの有様は何だ」

カツンという最後の一歩と共にルークよりも低い同質の音が投げかけられる。

「逃げてねぇし、なんでもないし」
「はっ! なら俺を見ろ」

アッシュを見るということはまたこの顔を晒(さら)すことと同義だ。冗談じゃない、説明なんてもっと有り得ない、その思いのままルークは

「なんでもねぇって言ってるだろ!」

とアッシュを押しのけ今度こそ走り去った。今度は追いかけてくることはなく、ほっとしたが次からどう接すればよいかまるでわからなくなってしまい、さりげなくも毎日アッシュを避けることとなったのだった。
ただし、それがさりげないと思っているのはルークだけで周囲からしてみれば避けていることは丸わかりである。
一方それとなく距離を置いてばれていないと思っているルークは討伐チームに呼ばれ今日のリーダーであるミリーナの所に向かっていた。
ぺたぺたと足音がするのは指定された水着姿だからだ。

「海岸沿いの討伐だから涼しい格好で来てね。前に渡した水着なんてどうかしら? 討伐のあとは遊びたいわ!」

と、言われて服を着ていくほどルークは頑なではない。しかしミリーナの姿を見て困惑することになった。最近着用するようになった黒いドレス姿のままだったからだ。

「ミリーナ? あれ、水着は? 下に着てるのか? そんなに焼けたくないのか?」
「もうルークったら! ちょっとずれているところも可愛いけれど着ていないわ。今日私は行かないことにしたの。ちょっと気になることがあってコーキスにも手伝ってもらうからコーキスも行かないわ」

たった二人での任務になるということだ。討伐であるのだから心許ないがまぁなんとかなるだろう、と頷いたがそれを直後に後悔することになった。もう一人が誰かを確認してから了承すべきだったと。

「だからアッシュさんと二人でお願いね」
「え……っ」
「先に行って貰っているの。じゃあ行ってらっしゃい。あとでコーキスに追いかけて貰うつもりだから討伐しながら海辺で待っていてね」

有無を言わさず送り出され、ぽいっと飛び出たすぐそこにいた眉根を寄せたアッシュとばっちり視線が絡む。

「……お前だったか」
「うあっ! なんでアッシュは水着じゃねーんだよ!」





2018.8.1p 発行