「おー……きれいだな」

「そうだね」



オルニオンから見える星空は帝都とはまったく違う。

隣で寝転んで煌めく星空を見上げるユーリから感嘆のため息が零れるのを、少し浮ついた気分で聞いていた。



先ほどまで久しぶりに本気で剣を交えていたからまだ気分が高揚している。

やはりというべきか、ユーリは強かった。

心も体も信念に従ってぶれていない。

自分の手を汚してでも進むと決めたことは賛同できないが、どこかでその役割を担うものが必要であるという現状も理解している。



はたして自分はどうだろうか? ユーリから見てどう映っているだろうか?

ユーリの言う腐った騎士団に居続けて、歪んでいないと思いたいが自分のことは客観的に分析できているとは言い難い。



「なんか下らねーこと考えてんだろ」

「君からみた僕は今どうなんだろうと思っていただけだよ」



くつりと笑ったユーリは「どうもこうも」と呟いて視線を投げてきた。



「今も昔もフレンは変わってねぇよ。真っ直ぐで馬鹿正直のままだ」

「ひどいな」

「褒めてんだけどな。俺はそうはなれねぇし」

「僕もユーリになれない」

「俺とお前は違うんだ。やり方も進み方も違う。でも目指す先は同じなんだからそれで十分だろ。……お前は俺の真似なんかすんなよ」



法を持って秩序を守ると決めたならそれを貫き通せとユーリは言う。

それを曲げるつもりなどない。

でも。





「……ユーリにだけ負わせている自分が酷く汚い生き物のように思えて仕方ないんだ」

「そりゃ俺だよ。やってることからいってもな。後悔なんてしねぇけ、ど……」



最後まで言わさずに覆いかぶさって口を塞いだ。ユーリに汚いのは自分だなんて言わせたくなかった。

触れるだけだったが言葉を止められたので、目を開けて顔を離すと不服そうなユーリの顔が眼前に広がる。



「……んだよ」

「ユーリは綺麗だよ」



ユーリの表情が呆れたように動いて「相変わらず目が悪いのな」と軽口を叩いた。

まだお互いの身長が伸びきる前から僕はユーリにそう言い続けていて最初は否定していたユーリもあまりに言い続けるためか呆れてしまい、

途中で諦めた。



僕は本当にユーリが綺麗だと思っている。

見た目もそうだが、何より心が綺麗だ。



「だからって、何もこんな風にしなくてもいいんじゃねぇの」

「久しぶりで驚いた?」

「……まぁな」



最後に触れたのは、ユーリがまだ帝都にいた頃だったか。

それからは別行動をしていたし、一緒にいるようになってからも他の仲間と常に一緒なのだからそんな素振りは見せなかった。

これはお互いそうしていたのだと分かっていたが、外の世界に出て、いろいろな物にふれて、

その心はもう自分にないかもしれないという思いはどこかで持っていたことに違いはない。





「お前は、まだ……俺にこういうことできるんだな」

「まだって?」

「……くそ、意地悪ぃ。鎧が刺さるから離れろ」



刺さるような覆い被さり方はしていないので、これはユーリの照れ隠しからの言葉だ。

そんなに簡単に変わる気持ちをお互い持っていた訳ではなかったのだと実感し、それに満足して要望通り離れつつユーリの腕を引いて立たせた。



これ以上ここにいたら冷え切ってしまう。

そのまま休憩している小屋に戻ると珍しいことに誰もいなかった。



「全員いないなんて珍しいね」

「あぁ、そういや見張り台に行きたいとかエステルが言ってたっけ。カロルとリタも行ったんだろ。ジュディとレイヴンは別かもな」

「だろうね。ちょうど良かった」

「?」





身軽になったのをいいことに思いっきりユーリを抱きしめると少し狼狽したように身じろぎされた。





「おい……フレン」

「なんだい?」

「何って、だれか戻ってきたらどうすんだよ」

「気配でわかるよ。大丈夫」

「いや、大丈夫じゃねぇ、し……」

「何もしないよ」

「こんなとこでしてたまるか。バカ」



抗議するように後頭部の髪を引っ張られつつも仕方ないとばかりに腕が回されたので、ユーリも大概僕に甘い。

窓から容易に見えないよう注意しつつ久しぶりの充足感に身を任せた。

艶やかな髪は相変わらず手に馴染んで心地よい。





「……本当に、久しぶりだね」

「そうだな」

「キスくらいはいいだろう? ユーリ?」

「さっき不意打ちでしたくせに今更言うか。ダメだっつって、やめんのかよ?」

「それは…難しいな……」





ユーリが嫌なことをしたい訳じゃないけれど、自分はもっとユーリを感じたくてその板挟みでちょっと困ってしまい固まっていると、

その反応でか、少し笑って「冗談だよ」と笑う。





「いいけど、それ以上は本当に無しな。場所が悪い」





それはもちろん、と同意した。

改めて触れると、旅をしてきてよく今まで己を戒めてこられたな、とどこか他人事のように思った。

















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そんな素振りは見せてこなかったから周囲は本気で気づいてない。




2013、10・20 UP