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ultimatum 3


「ルーク……アッシュ……」


呆然とティアが呟きそれに反応したヴィントヘイムが憤然とした表情でティアを睨み据えて口を開いた。

「貴様ら……っ! 私を謀ったな!」
「謀る、とは? 貴方はこの現象を何だと?」
「何を白々しい。貴様らの差し金だろう! さしずめティアと姫か。第七音素を操り英雄の幻影を投影しているのだろう。ローレライを召喚したと思いこませ油断を誘うとは……卑劣極まりない行いです。恥を知りなさい!」

なおも喚き散らすヴィントヘイムを見下ろしていたアッシュが舌打ちをして、不意に右手を掲げて振り下ろすような仕草を見せるとルークがぎょっとしたようにして一足飛びにヴィントヘイムと仲間達の間に降り立って両手を上げた。
その手に従うように薄い光の膜が現れる。

「ルー……!」

ガイの声は、けたたましいガラスの割れる音や金属の擦れる音によって途切れ、耳を抑え周囲を見るとシャンデリアらしきものの残骸が転がっていく。
地面で砕かれたそれらの残骸がこちらにも飛んで来たようだったが、光る半透明の壁によって弾かれたそれが地面へ落ちるのを確認してルークは手を降ろした。

「焦った……。危ねえだろ、アッシュ……」
「お前がそうするだろうと踏んでいたし、そもそもそいつにすら直撃させようとは思っちゃいねぇよ」

アッシュの言う通りヴィントヘイムに落ちた訳ではなかった。
しかし彼のすぐ側に落下したことに違いはなく、中心を支えていたシャンデリアの太い金属は深々と絨毯に突き刺さっている。
直撃したらどうなっていたかは一目瞭然だ。

アッシュもルークと同じように跳躍しルークの横に並んで立った。
腰を抜かしたヴィントヘイムはただただ見上げるだけだ。

「ローレライは、もう地上に囚われることを良しとはしない。不快な音で召喚しようだなんて二度とするな。何回やろうと無駄だ」
「なによりうるさいしな……」

ルークが少し遠い目をして溜息をついた。

「馬鹿なことを! 私はローレライの意思を確認するまで諦めなどしない!!」
「今、言っただろう。聞いてなかったのか」

アッシュの淡々とした言葉に対してヴィントヘイムは蔑むように口角を吊り上げた。

「えぇ、ローレライの意思なら是が非でも伺いたい。ティア、姫。このような茶番はやめなさい」

ヴィントヘイムが心底嫌そうにそう吐き捨て2人を見やったが、それに返ってきた応えは抑えようのない動揺を表した声だった。

「や、めようが……ないわ。だって私たちは何もしていないのだもの……」
「そうですわ……。貴方、おわかりにならないの? 貴方もセブンスフォニマーなのでしょう……? よくよく、感じとってごらんになって……。ここまで純粋で高密度な第七音素……」
「この後に及んで……? ……!?」

怪訝そうにしながらもヴィントヘイムは恐らくナタリアの言う通りにしたのだろう。
その顔が愕然という言葉がぴったりな表情を形作った。

その体、髪、纏っている服……その全ては第七音素で、いや、第七音素のみで構成されている。
周囲に揺らめく焔のような光も同様だった。

第七音素集合体、そうぽつりと転がり落ちた言葉を受けて、ルークが呆れたように首を傾げた。

「……誰を呼んだつもりだったんだよ?」
「もちろん、ローレライを……」
「だから、俺たちが来たんだろう。何をそんなに驚くことがある? そしてさっき、ローレライの意思は伝えた。目的は達したはずだ。それとも、理解できなかったか。なら、改めて言ってやろう」

しんとした張り詰めた空気が満たす。

「俺もルークもお前に与しない。すなわち」
「ローレライは二度と地上に縛られない。……なぁ、ちゃんと世界見ろよ。こんなことしてねぇでさ」

縋るように伸ばされたヴィントヘイムの手は揺らめく第七音素に弾かれた。
セブンスフォニマーである彼にとってそれは言葉よりも雄弁に拒否を語り、そしてそのままぷつりと糸が切れたように気を失った。

「気を失いましたの……? ほんの少し触れただけで……?」
「許容量を超えたんでしょう。召喚したり使役できる器じゃなかったということですね。……お久しぶりですね、ルーク。……アッシュも。元気そうで何よりです。……憶測が本当になっていて、良かった」

ルークがパッと振り返ってジェイドを見上げ嬉しそうに笑った。
その際ルークから第七音素の鱗粉が舞ったが仲間に触れてもヴィントヘイムのようなことにはならない。

ジェイドは柔らかく微笑んでおり、パーティの一番後ろにいたため他のメンバーは忙しく2人を交互に見た。

「やっぱりジェイドはわかってたんだな……。んで、相変わらず譜術すげーな! 見てたぜ! みんなも。元気そうで良かった……。みんな大人になったな!」
「貴方は変わらないのね……ルーク」
「う……うん」

すっかり大人の女性になったティアにそう言われ、意識通りの見た目を維持しているルークは少し複雑だった。
それって成長してねぇってことかなぁと思いつつもアッシュも一緒なのだしまぁいいか、と結論付けた。

「ガイまた背が伸びたのか?」
「え? いやー流石にそりゃないだろ。アニスならまだしも」
「あー。伸びたなーアニス」
「可愛さ倍でしょ〜」
「って、中身は変わってないのかよ!」
「あら、ふふ、その反応! 貴方こそ人のことは言えませんわよ?」
「ナタリア。すっげー綺麗になったな! な、アッシュ」
「そうだな」



誰も何も核心には触れず、短い会話をルークと交わす。

わかっていた。存在の有り用が変異した2人とのこの束の間の邂逅はもうすぐ終わるのだと。



――それまでは。



例え短い間でも。









「……ルーク」

「うん。アッシュ……」


ふっと少し寂しそうな表情をして2人は仲間と距離を取った。
アッシュの差し出された手にルークの手が重ねられると2人の姿は揺らいで、ふわ、と浮き上がり光が増していく。

「ルーク! 1つだけ、教えて。……今、あなたは……」

それ以上は詰まって言葉にならなかったが、ルークはティアの言いたいことを汲んだようににこりと笑った。
少し照れたように笑うその表情――それだけで充分だった。


光に溶けていく姿が涙で滲む。
瞬きで涙を追いやって光の片鱗の最後までを見送ったと同時に力が抜けて膝を付いて顔を覆った。


「ルーク、笑っていたわ……」
「ああ、そうだな……」

そう答えたガイの声は、ティアと同じように泣き笑いだった。

「さて、皆さん。まだ終わっていませんよ」

ジェイドが手を叩いたことで、全員がはっと我に返り目を見合わせ頷き、ティアもまた流れる涙を拭い顔を上げた。
立ち上がろうと足に力を入れると同時に、涙を浮かべたナタリアがそっとティアを支える。

(そうだわ。まだ終わったわけではないのだから。見ていてね、ルーク。収めてみせるわ)

それが預言のない道を選んだ自分たちの責任だと思った。