それはいきなりやってきた。



「ルーク! 見てくれ! ついに完成したぞ!!」



突然ガイが屋敷にきて(それはもう、扉を壊しかねない勢いだった)俺を見るなりそう言った。



「なっなんだよガイ、どうしたんだよ?」

「ほら、見てくれ! お前これ覚えてるか?」



ずいっと目の前に差し出されたのは手のひらサイズの音機関の上に黒い布を被せた何か筒のようなものが出ているものだった。

一瞬分からなかったものの、以前ガイがこの屋敷にいる時から作っていたいたものだと思いだす。



「あぁ……お前がまだ屋敷にいたときにいつもあーでもないこーでもないって唸ってたヤツじゃん。

それがどうしたんだよ。つーかガイ。ちょっと落ち着けよ……」



ちょっと冷めたような反応をされてガイは眉尻を下げたものの、めげない。



「お前も絶対これの真価を見たら落ち着いてなんていられないって!」

「ふーん」

「ふーんってお前……。と、とにかく! 見てくれ」

「別にいいけど……」



完全に乗り気でないルークを壁際に立たせて機械をテーブルの上において覗き込むように抱える。

筒のようなものを覗き込んで何かしているようだったがルークには一体何をしているのか分からない。



「んだよ、何もしねぇのかよ?」

「これからだって。はい、ルークここ見て」





ここ、と何か丸いリングがはめ込まれた所を指差す。





「はい、笑って〜」





カシャリ。



そんな音をさせてガイは機械から離れた。

ルークは頭の上に疑問符をぷかぷかと浮かせている。



「一体何なんだよ」

「これはなぁ、ルークをそのまま映し出す音機関なんだ」

「は? 絵ってことか?」

「違う違う。被写体の像を感光材料……主に銀塩だな。その上に投影して適正な露光を与えて焼付け処理を……」

「あーーーーー説明はいい」





バッサリ。



途中で遮られたガイはちょっと不満顔だ。



「まぁ、これから特殊処理をしないと見られないんだけどな」

「……」



つまんね、とルークの顔にでかでかと書かれている。

ガイはカシャカシャと屋敷のいたる所で音機関を使って、すぐに帰っていってしまった。



「あいつ……なんのために来たんだよ」

















1週間後、ガイから封筒が届いた。

やたらと分厚い。

ルークはなんだろうと疑問に思いつつ封を開ける。

もちろんラムダスが開封して中身を確かめているから(安全確認ってヤツだな)もう封切られている訳だが。



「わ……」



言葉を失った。次いで、大声で。



「おっおれがっ! 鏡に映った俺がいるー!!」





屋敷に声が響き渡った。





「うるせぇぞ、何騒いでんだ。屑が」



アッシュが呆れ顔で腕を組み、扉に寄りかかってルークを見ていた。

アッシュの顔をバッと見て「こ、これっ」と言いながらルークはガイからのものを見せた。



「……なんだこれは」



一番上に平面に描かれた小さいルークがいた。

しかし撫でてみても筆跡や絵具の感触は伝わってこず、つるりとしている。



「ガイがこの間来ただろ? あん時の音機関で作った? らしいんだ」

「あぁ、なんか屋敷をうろうろしてやがったな」

「それにしてもすげーなぁ……。見たまんまを残せるなんて」



ルークはその小さなものをためつすがめつして感嘆の溜息をついた。



「あいつ、マルクト貴族やめてシェリダンに住んだ方がいいんじゃねぇ?」

「……音機関バカもここまでくると笑えねぇな」



2枚、3枚と紙を見ていく。

屋敷の中だったり、中庭だったり……身近なものがそのまま描き出されていた。

パラパラとめくっているルークの手がぴたっと止まったので、

疑問に思ったアッシュがどうしたと聞くとほんわり笑って差し出してくる。



「俺、これ欲しいなぁ……」



見せられたものはアッシュの横顔。

歩いていたところらしく髪が靡いていた。



「まったく油断も隙もあったもんじゃねぇ……ガイの野郎」



ルークがやたらとキラキラした目で貰っていいかと伺いを立ててくる。



「なぁなぁ、これくれよ!」

「そんなもんどうすんだ」

「えー! だってアッシュだもん! 欲しい!」





欲しい欲しいと連呼するルークの手からするりと1枚抜き取って。





「じゃ、コレは俺のもんだな」



手にぎこちなく笑うルークの紙を持って、「俺のもの」という言葉を強調してニヤっと笑ったから。

ルークはドカンと赤くなってしまった。

口をパクパクして何か喋ろうとしているが、言葉にならない。







「えっな……っ! とっとりあえずコレ貰ってくからっ!!」





アッシュの紙以外を机に放り出して、バタバタと部屋から走りでていくのを面白げに見やって、

1人残されたアッシュは紙に描かれたルークを愛しげに撫でたのだった。

















お互いの写真を持ち歩くアシュルク……。





2009、7・12 UP