「……それはなんだ」
「えーと、犬?」
あ、物凄い渋い顔された。
うぅっでもこれくらいでめげちゃ駄目だ、おれ!
小さなふわふわの白い毛の仔犬を腕に抱いて踏みとどまる。
「どこから持ってきた……」
「街で見つけたんだ。小さい道にいてさ」
アッシュはもはや溜息しかでないようだった。
それでも「元の場所に戻してこい」なんて言わないことぐらい、俺にだって分かってる。
アッシュは優しいからな! 本人は認めないけど!!
うわ、睨まれた。
なんでだ、アッシュには俺の考えてることが筒抜けなのか?
いやいや、今は俺のことじゃなくて犬のことだ。
俺の腕の中でくんくん鳴いている仔犬を見つめる。
小さい。ミュウよりも小さい。
一体生まれて何日なんだろう? 母親はどうしたんだろう。
兄弟もいるんだろうな。
「なんでお前あんなとこで1人だったんだよ?」
ぽつんと一匹で。
……なんだか、昔の、俺と……姿がかぶったような、そんな錯覚。
「寂しかったよな。でもお前はもう一人じゃないからな」
アッシュはなにも言わない。
仔犬を見てどうしようか考えている風情だった。
「アッシュ」
「なんだ」
「うちで面倒みさせてくれ。
ずっとなんて言わないから、こいつを引き取ってくれる人が見つかるまででいいから……。
こんな小っこいのに……1人っきりなんて寂しすぎるだろ……?」
もぞもぞと腕で動く子犬は暖かい。
「……責任をお前がもつなら、それでいい」
「ありがとう! アッシュ!!」
やっぱりアッシュは優しいな!!
あれっ今度は殴られた。え、何? 声に出てた?
仔犬を抱いてちょっとボーっとしてたら頭上からタオルが降ってきて前が見えなくなる。
「うへぁっ?」
ちょっいきなりはやめろよ! びびんだろ!
「それでそいつを拭け」
「なんで」
「なんでって……。今まで外にいたんだ。足裏の土埃とか払え。
……まぁ絨毯に足跡がついてもいいなら別だが?」
あぁ! そっか!
「そだな。お前ちょっとじっとしてろよ〜。ついでに体も拭いてやるからな〜」
きゅんきゅん言ってて可哀相な気もするけど、メイドたちの仕事を増やす訳にもいかないので心を鬼にして足を拭く。
体を少し湿らせたタオルで拭うとふかふかの白い毛が更にほわほわしてきた。
「お前こんなに白かったのか! しかもふわふわだな〜!」
「かなり見られるようになったな」
アッシュもその変わりように驚いているようだ。
うん、きれいになった!
「お前おなか減ってないか? ……というかお前お前って可哀相か。
んー……シュクル! シュクルってどうだ?」
「くぅん?」
何? という感じでシュクルが鳴く。
「いい名前じゃねぇ?アッシュ」
「……くくっ、お前、それ砂糖って意味じゃねぇか。
いくらこいつが白くて柔らかそうでも食えねぇぜ?」
「食わねぇって〜! いーじゃん! 白くてふわふわして砂糖みたいだしさー」
いい名前だと思うのだが。響きも。
見れば見るほど、シュクルという名前がしっくりくる。
……うん、やっぱりシュクルだ。
「短い間かもしれねぇけど、これからよろしくな。シュクル」
書き終えてから、「シュクル」ってアシュルクの響きと似てると気付きました。笑
フランス語で砂糖(…だったはず)
2009、11・21 UP