「あんたたち! 無事だったんだね!!」

「わぁっ! ロ、ローズさん!?」



顔を見るなり大きく広げられた腕に抱え込まれ2人は狼狽した。

ぎゅうぎゅう抱きしめる力は強く息が詰まるがそれだけ心配してくれたのだと思うと涙が出そうになる。



「心配してたんだよ! ひどいことされなかったかい!?

私が留守にしてる時に連れて行かれたって聞いて、どれだけ……つまらない用事で村をあけるんじゃなかったと思ったか!

悪かったねぇ……怖かったろう」

「う、うん、びっくりはしたけど。大丈夫だったよ。なぁ、アル?」

「あ、あぁ……そう、だな……」



連れて行かれた際の検査は非常に危うい状況に陥ったが、結果的にはそうだ。

それよりもアッシュは、大人の、しかも女性に「抱きしめられる」という状況に不慣れなため今の状況の方が面食らってしまう。

ルークと違ってどこに手を置いていいやら分からないらしく空中で不自然に固まっていた。





「それで、2人は戻してくれるんでしょうね?」





不審そうな声問いかけは2人を連れてきたジェイドに向かって投げられたが、それをものともせず彼はにこりと笑んで答えた。



「先日はご挨拶もせず大変失礼いたしました。身元の不確かな子供たちを調査しておりまして。お2人にもご協力を頂いた次第です」

「私はこの子たちの養い親なんですよ。一言あってしかるべきじゃないのかい?」



不安そうに見守る村人たちがその発言にぎょっと身を強張らせているのをアッシュは見た。

軍人に逆らうとどうなるか分かったものじゃないと言っているようなものだ。



「その点については謝罪を。さて、調査の結果ですがお2人はホド島の出身であり、さらに……さる貴族の血を引いてらっしゃることが判明しました。

そのため貴方との続柄は解消され、正しい身分へと訂正されます。

なお貴族院での決定によりお2人はグランコクマに住まいを移して頂くことになるのですが……。

今日は貴方にご挨拶をしたいというお2人たっての願いで参りました」



一息で語られたその内容に、はっと息を飲むもの、おぉ……と控えめに声を上げるものと、その反応はまちまちだったが一様に驚きを隠せないようだ。

彼らにとってホドのことは鮮明に記憶に残っている事象なのだから。



そんな中、正式な書類を手渡されたローズだけが下唇を噛みジェイドを探るように見ており怪しんでいるのは明らかだ。



「しばらくはここに居るんでしょう? 家を片付けないといけないですよね」

「そうですね。数日は滞在することになるでしょう」

「わかりました。手伝いましょう。あの家のことで一番詳しいのは私なんですからね」



ジェイドは「助かります」と言って人手が必要な時は呼ぶようにと言い置いて宿へと引き上げていき、

2人はローズに引きずられるようにして家に入った。



有無を言わさず最初に会った時と同じようにソファに座らされ、お茶が出される。





「熱いから気をつけるんだよ。とりあえず本当に無事でよかった。見たところ元気そうだねぇ……」

「ローズさん……」

「うん、色々聞きたいことはあるんだけどね……あんたたち、出身はキムラスカだろう? ホドだなんて……脅されてるんじゃないのかい?」



これには2人して首を振った。



「本当なのかって聞きたいところだけど。ホドがああいう風になっちまったのは生まれてすぐの頃だね。

あんたたちにわかるはずもないか……。アルとルルはそれでいいのかい?」



アッシュもルークもそれに頷いて「それでいい」と答えたのでローズは深く息を吐いて首を振ったが何も言えなかった。

ローズには不可解なことが多すぎたのだ。国か軍に利用されているんじゃないかと思えて仕方がない。

だが一介の村のまとめ役が介入できることでもないとわかっていた。



「怪しい気がするんだけど、私にはなんとも……」

「利用されるかもしれない。それは俺たちにもわからない。でも、今はこれが最善……なんだと思う。今、キムラスカに戻る訳にはいかないんだ」

「心配ばかりさせてごめんなさい。でも決めたんだ。養子にしてくれて、おれ嬉しかった。ずっと忘れないから……」

「ちょっと、なーに。これで最後みたいな言い方するんじゃないよ! 貴族には別荘がつきものでしょう。

まぁ別荘っていうにはこぢんまりしてるし、チーグルの森の側っていうとんでもない場所にあるけど。

あの家はあのままにしておくからたまに帰っておいで。その時には私の手料理を振る舞うからね、うちにも寄るんだよ!」





ぐす、とルークが涙ぐんだのを見てローズは肩を優しく撫でる。





それを見たアッシュは一般的に言われる母親とはこういうものなのかもしれないとしみじみ思い、

親と子ですら距離のあるファブレ家ではこうはいかないはずだと妙に納得した。



だが、それは貴族全般に言えることだ。





(それはあの人の罪ではないのだけど。でも、もっと知ろうとして下さるだけで、良かったのに……)





思っている以上に自分の中には母への思慕があるのだとアッシュは自覚した出来事だった。

















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おれもアッシュも村の人のやさしさ忘れないよ。




2013、11・23 UP