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鳥籠にさようなら 14


「言い訳はしないか。……いい心構えだ。さて、どうするかな」
「ことがことです。公にできることではありません。秘密裏に処分を行うしかないでしょう」
「……っ」

いよいよガイの目の前は真っ暗になったがその瞬間暖かいものがぶつかってきた。

「い、いやだ……! ガイは、ガイはっおれにひどいことなんてしなかった!! ガイはずっと、何もできないおれの側で色々教えてくれたんだ!」

隠されていた事実に驚き、そして悲しかったけれどそれを上回るほどルークにとってガイは特別だった。
レプリカとして生を受けて、最初に認識したのはアッシュで、その次が、ガイだったといっても過言ではないのだから。

記憶を失い本当に何ひとつできなくなった(と思われていた)ルークに対して辛抱強く接し続けたのはガイだけで、そのことにどれだけルークが助けられたか。




『おはよう、ルーク。今日は歩く練習しような』



シャっとカーテンがあけられるとさっと明るい光が差し込んで嬉しかった。

本当の外に出ることはできなくても中庭のその明るさに心が弾んだ。



『頑張ったな!』



小さいことでも褒めて貰えることが嬉しくて次はもっと頑張ろうって思えた。



『それは、ダメだ、ルーク』



そう教えて貰わないとわからないことが、沢山あった。

誰もがうっすらとした膜をルークに対して張っている中、他の誰よりガイはとても近くにいたのだ。




「おれも、おれのこと、隠してた……。ガイと一緒だ。ガイだけ責めるなんて、おかしい……」

ピオニーが目をくるり、と悪戯っぽく動かしガイを見る。

「ガイラルディアに命を狙われていたのに? 庇うのか?」
「庇うとか、そんなんじゃない。おれ、生きてる。ガイが本気でそうしようと思えばいつだって……そうできたはず……それだけ側にいたんだ。でもおれは生きて……アッシュと一緒に居られてる。ガイは……そんなこと、しない」

ガイがハッとしたようにルークを見下ろした。
その顔が信じられないとでも言うような表情を作りそして泣きそうにしながらルークをそっと引き剥がした。

「ガイ……?」
「ルーク、ありがとう。お前が俺の心をゆっくり変えてくれた。でも、駄目なんだ。俺は裁きを受けなくてはならない。それが理だ……」
「そうですね。一歩間違えれば両国の戦争を招く所業です」
「ルーク1人の意見を通す訳には……なぁ?」

またもやピオニーの目は細められじっとルークを見やった。それでルークがピンと来たのはほぼ奇跡に近い。

「おれ、1人じゃなければいいんだなっ!?」

パタパタと軽い足音を立ててルークは衝立の後ろへと回り込んだ。
まだ、誰かいるのか――と騒ついたガイの心臓は途端、バクバクと煩いほどの鼓動に変わる。

ルークに手を引かれて現れたのは『ルーク』だった。
手を繋いで立つ姿は鏡に映したように同じで、違うのは表情か。
ルークがへにゃりと泣きそうな顔をしているのに対し『ルーク』は戸惑いを含みつつも少し鋭い目線を送ってくる。

絶句して言葉もないガイに向かって『ルーク』は少し面白そうに首を傾ける。

「久しぶり、だ。3年振りか……」
「3、年……?」
「俺がお前に対して思わない所がないといえば嘘になる。でも、あそこでルークが唯一頼りにしていたのはガイだと知ってる。俺もそうだった。ルークがガイを咎めたくないというなら……俺も、それでいい」
「ルーク殿2人がそういうなら、否やはない。なぁ、ジェイド」
「陛下がそう仰るならば」
「ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。貴殿を罰することはしないことにする。色々面倒だからな。マルクト皇帝として命ずる。これからすることに協力しろ。それでお咎めなしにしてやろう。おっと、拒否権はないからそのつもりでな!」

もう意味がわからないと顔中に貼り付けているガイに向かってピオニーは言い放った。

「そうと決まればすることが色々とある。とりあえずガルディオスの嫡子が生きていることを公にして、そのどさくさに紛れてアッシュとルークもガルディオス所縁の貴族に組み込むぞ! ジェイド作戦会議だ!」
「はい。陛下」

どかどかと高い音を立てて部屋を横切っていくピオニーは通り過ぎ様にガイの肩をぽんと叩き片目を閉じた。

「お前はルークから……『2人のルーク』から事情を聞いてから隣の部屋に来い。いいな? 急がなくていいからな。じっくり向き合え」
「マルクト……皇帝、陛下……?」

にっと笑って、それには答えずピオニーはさっさと部屋を後にしてしまった。
未だ混乱から抜けきらない頭は、確かに周りの景色も音も認識しているのにまったく現実感がない。

いや。1つだけあった。

こんな中でもルーク(髪の色の薄いルーク)だけは、鮮明にガイの心に触れてくる。

「ガイ、話、きいてくれる?」
「ルー……ク」

鏡写しのような2人が、ひたりとガイを見つめていた。