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鳥籠にさようなら 18


「ヴァン師匠はフェンデっていう貴族の生き残り…なんだよな? ヴァン師匠もガイの騎士だったのか……?」
「そうだ。いや、将来的にはそうなるはずだったが正しいな。あいつもまだ子供だったし。
……そう、お前と俺の関係に近かった」

ルークを見つめながらもガイは幼いころを思い返しているのかどこか少し寂しげだ。ファブレ邸においてルークとガイは紛れもなく主従関係だった。
しかしそれは立場的に、ということであって実際はもっと近しい関係を築いてきたのだ。
褒められたことではないとガイ自身自覚があったが、心はどうしようもなかったしそれでよかったのだと今は思っている。
もちろんガイはファブレ公爵や執事の目があるところでは振る舞いや言葉遣いを相応に改めていた訳だけれども。

「ヴァンの心が今は見えない。俺の復讐に付き合うと言っていたが、今のあいつの目的は違うのかもしれない。いや……それ以上になにか……恐ろしいことを企ててなければいいんだが……。今すぐに連絡を取るのはやめておこう。お前達の存在をわざわざ知らせなくてもいいだろうしな。ただホドの領主だっだガルディオス家が再興したという情報はどうやったって知られてしまうだろう」
「ダアトでも、か?」
「ああ。あいつにとってもホドは特別だからな。向こうからコンタクトしてきてもペールを呼び寄せてお膳立てが済むまでお前たちはあいつに関わるな。少なくとももっと身長が伸びて……そうだなぁ、声変わりするまでは駄目だな。印象ってやつは中々消えないんだ」

(声ってかわるものなんだ……知らなかった。いつ変わるんだろう)
(くっ……身長…………!)





「くそ……アッシュめ、どこへ消えたというのだ!」
「本当にアッシュの行先に心当たりはないのですか? 各地にあるというファブレの別荘などに潜んでいるのでは……?」

ヴァンは机を憎々しげに叩き「それはあり得ない」と否定した。
リグレットから見てもヴァンの憔悴の色は濃い。
総長直属の部下として動き回っているヴァンは多忙を極め、その合間にアッシュ捜索を行っているのだから当然だ。
副官としてヴァンに従うリグレットも時間を見つけては探しているがあくまでアッシュは一般兵。
しかも見習いでしかないのだから人員など裂けるはずもない。
特別に捜索するなど「何かあります」と吹聴するようなものだからだ。

(身分を伏せて入団させたことが仇になったわね。いや、でも……まさかファブレ所縁の者として入れるわけにはいかなかったのだし。でもアッシュの行き場所なんてもう、ここ以外にないというのに……)

そういう風になるよう仕向けたのは目の前の男だと知っている。

「アッシュが要だというのに。これでは……計画が……」
「アッシュがいなければ貴方の目的を達することは不可能なのですか?」
「あぁ、そうだ」

ヴァンに野望があることは知っているが、まだ詳細までは知らされていないのだ。警戒心の強いヴァンらしいと言えた。素振りにも出さないがリグレットの胸中には復讐心が燻っている。
それがもう風前の灯だとは自分自身でも分かっているのでいずれ自分も片棒を担ぐことになるのだろう。

(まさかとは思うが、大爆発が起きたというのか? ……レプリカルークがまだ存在していればその懸念はなくなるのだが……。
すぐに確認する術はない。前回稽古をつけた時の動きにどこも違和感はなかった。
緩やかに段階を踏んで進行するとディストは言っていたはず……急激に進行することなど有り得るのか……?)


「穴だらけの計画は滞りなく進行していますか? ……ヴァンデスデルカ」
「……!」


柔らかな笑顔と裏腹に冴え冴えとした目を持つ人物がヴァンをひたと捉えている。
ヴァンは不敵な笑みを刷いた。来る時がきたのだ。自分の進退はこの子供の一言で変わる。そして思い通りにことを進めてみせるのだ。

「……その目、いいですね。そこまで不遜な目を見るのはいっそ清々しい。ねぇ、アリエッタ?」
「アリエッタ……よく、わからない、です」
「ふふ、そうでしょうね。今日はもう下がって構いませんよ。僕はヴァンデスデルカと大事な話があります。リグレットも下がってください」

わざとらしく長い名を繰り返す導師に少し眉をしかめるが導師はにこりと笑んだままだ。
アリエッタは耳慣れない名であっても詮索などせず小さく頷いて大人しく下がった。
リグレットもその命令に逆らえるはずもないので腕に抱えていた書類を机に置き退室する。

途端に導師イオンの表情から柔らかさは消えうせ冷え切った口調に変わった。

「身の程知らずのヴァンデスデルカ。お前は世界を、この預言に支配されたオールドラントを再生すると言っていたくせに、僕に『聖なる焔の光』の預言を詠めという。それって矛盾しているよね」
「……」
「別にいいんだけど。それが人間というものさ。ちょうど暇だったから詠んであげたけど何も詠めなかったよ。レプリカルークに預言がないのはまぁ納得できるとしてオリジナルルークも詠めないのは予想外だったよ。レプリカって面白いね?」

詠めない、ということはやはりもう存在していない可能性を覚悟しなくてはならない。
ヴァンの頭の中では目まぐるしく様々な計画が浮かんでは消えていく。こうなった以上どうしても目の前の子供を取り込むしかない――。

「お前、僕のレプリカを造りたいって言ってたよね」
「は……」
「いいよ。乗ってあげても。僕も今回の件でレプリカに興味を持ったし、預言に支配されないというのは本当に面白い。僕の気持ちがかわらないようせいぜいいい説明を準備しておくんだね。今度、聞いてあげるよ」

唖然とした顔をするヴァンを一瞥してイオンは扉を閉めた。
こつこつと軽い硬質な音を響かせ歩くイオンの姿を認めた教団兵が恭しく礼を取ることに対して何も感じることなどない。
だが、内心とは裏腹に導師として育てられたイオンにとって慈悲深い笑顔を浮かべることなど造作もないことだった。

最短距離で自室に戻りくつりと笑う。
月明かりに照らされる顔は不適な笑みを浮かべていた。



「……僕も、レプリカも。思い通りにできると思うなよ」



レプリカは本当に興味深い。オリジナルの預言に影響を与えることすら可能なのだから。
ポケットから掴み出したものを月明かりに照らす。

「それにしても綺麗な譜石だなぁ……赤なんて、初めて見た」

親指の先ほどの小さな譜石がイオンの手の中で光る。
彼はヴァンに嘘をついた。預言は詠めなかったと言ったが実はほんの少しだけ詠むことができたのだ。
でもそれを伝えるつもりなどこれからもない。

「『聖なる焔の片割れを伴って水の国へ行くだろう。そこで新たな身分を手に入れる』か……。ふふ、アッシュはレプリカを連れて一緒に逃げたんだ。会ってみたいなぁ。僕が生きているうちに」

譜石をポケットに戻し楽しそうに呟いた。