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鳥籠にさようなら 2


暗い色の外套を羽織って、暗闇を静かに歩く。
灯りのない所を選んで歩いてはいるが、けして隠れている訳ではない。
アッシュによると、かえって堂々としていた方が怪しまれないのだそうだ。

最初はこれで本当に大丈夫なのか不安だったがたまにすれ違う人がいても、特におれたちに注意を向ける人はいないと気付いて、それがなんだかおかしくて楽しくなってきた。

「な、な、アッシュ?」
「なんだ?」

小さい声で囁く。

「おれたち、どんな風に見えてんのかな?」

目立つ赤い髪は編んで外套の中にしまってあるとはいえ、特に帽子を被っているわけではない。
しかも背丈を見れば大人でないことも分かる。

咎められないことが不思議だった。

「この暗さじゃ髪が何色かなんてわからねぇからな、ただの子供2人に見えてるだろ」
「えぇ? でもそれだってダメなんじゃねぇの」

確かにアッシュの髪は(というか全身だけど)グレーの濃淡にしか見えない。
光が常に側にある生活をしていた自分にとってはこれもまた不思議だったし、子供が出歩く時間ではないことくらいおれにも分かる。

でも誰も何も言ってこない。
……どういうこと?

「まぁ普通なら止められるが、俺たちはこれを持ってるからな。だからだ」

そう言ってアッシュはおれの胸元を指差した。



え?

何かあったっけ、と胸元を見たけど、特に何もないような……。


そうしてアッシュを見ると少し笑って「これ」と自分の外套の合わせを止めている飾りに触れた。

「これ……?」

確か、アッシュに外套を着せて貰ったとき最後に付けてくれたものだ。
あんまり気にしてなかったからこれが特別なものだなんて思ってなかった。
触ってみるとそれは木で、何か彫ってあるような……?

「船で働いていることを表すもの、だ」
「へー……」

でも、なんでこれだけで?
アッシュは少し笑って「あとで説明してやる」と言った。おれはそれにこくりと頷いて口を閉じた。





そのまま急ぐでもなく、それでも確かに歩いていくと港についたようだった。
港……ってこんなのなのか。
少しぽかんとしていたらアッシュに腕を引かれて、更に暗がりの方へつれていかれる。
正直言うとおれの目では周りがもう見えない位だったのでアッシュに導かれてほっとした。

迷いなく歩くアッシュはこの暗さでも見えているようだ。
何も見えないなか2人分の軽い足音と波の音だけが聞こえる。
なんだか暗闇に押し潰されそうな、そんな訳ないのに闇の中から今にも恐ろしい何かが襲いかかってきそうな……そんな感じがして怖い。


怖い!


どうしようもなくなって左手を引いてくれていたアッシュの腕にしがみつく。

「ルーク?」

驚いたようなアッシュに声を間近に聞きながらも何も言えない。
ただただしがみつくことしか。

「……もう少しだ」

頭を優しく撫でられ、でも顔なんてもうあげられないから「うぅ…」なんて情けない声と頷くことで返事をした。
怖さをアッシュにくっつくことでなんとかして歩く。
すると微かに灯りが見えた。あの灯りを目指してる、のかな……?
さらに近づくとそれは船の灯りだと分かり、その小さな船の上にちんまりしたおじさんが座っていた。

「あぁ、来たでゲスな」
「よろしく頼む」
「任せるでがス」

聞いたことのない言葉遣いのおじさんは、アッシュと話してからおれに向かって「坊っちゃんもよろしく」と笑った。

「あ、えと、よろしく……?」


アッシュに促されて船に乗ると揺れて驚いた。そっか、水の上なんだもんな。
船の真ん中より少し後ろに座るように言われアッシュの荷物も抱えて座る。

「少し揺れるゲス。坊っちゃん達、落ちないように気をつけるゲス」

船が大きく揺れたからびっくりして縁を掴んだ。
心臓がうるさいくらいドキドキしてる。
アッシュ、アッシュは大丈夫だったのかな?

見るとアッシュは水の中から何か鉄の塊を引き上げたり、オール(っていう名前だったような気がする)で船を動かしているようだった。
そっか、アッシュ、船のことも知ってるんだな……。

しばらく大きく揺れながら進んでいたけど、その内にあんまり揺れなくなった。


なんだか……眠くなってきた……。





「ルーク、酔ってないか?」

返事がないことを疑問に思って近づくとルークは眠っていた。
いつもだったらとっくに寝ている時間だから、無理もないか。

それにしても……。


「あれ、坊っちゃん寝てるでゲスか。この状況で寝れるなんてなかなかできないでやんすよ」



……まったくだ。