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鳥籠にさようなら 3


「ん、アッシュ……?」

ふっと水面から浮き上がるように目が覚めた。
うっすら開けた目にアッシュの姿が映ってる。

「起こしたか」
「ううん……」

指を伸ばすと、手を握り返してくれた。
指先に感じる温かさで徐々に頭が覚醒してくるにしたがって目に映るものもはっきり分かるようになってくる。
どうやらアッシュはベッドから降りようとしていた所のようだった。

「おはよ、アッシュ……」
「おはよう、ルーク」

まだ眠さが残る体を持ち上げて座ると再びベッドに上がってきたアッシュの手が笑い声と一緒に伸びてきた。

「すっげぇ寝癖」

あらゆる所を撫でられているから、あちこちはねてるんだろうなぁ。
あとで鏡見なくちゃ。

「アッシュは寝癖ないなぁ。いいなぁ」

あまり普段とかわりないアッシュの髪を見て呟く。いつも通りストンとしていて羨ましい。

「俺だって、たまに癖つく時だってあるぞ」
「たまに?」
「たまに」

うーん、やっぱり羨ましい。おれは寝癖がない日の方が『たまに』だ。
頭をふわふわ撫でてくれる感触が優しくて、それが嬉しくて、あぁほんとにアッシュと一緒にいるんだなぁって実感できた。

ふと、昨日のことを思い出す。

気がついたら俺は舟の上で寝てしまってて、アッシュに起こされた時は既にどこかに着いていた。
まだ頭が寝てたからそれからどうやってこの小屋についたか断片的にしか思い出せない。

森の中を通ったような気がする。

「ねぇ、アッシュ」
「なんだ?」
「ここどこ? おれ舟乗ってからあんまり覚えてないんだ」

あぁ、と納得してアッシュはサイドボードの上から地図を手に取った。
ここだ、と、示された所を見てもいまいちピンと来ない。
オ−ルドラント全体図ならまだしも、それはこの辺り一帯のみの地図だったからだ。

えぇと、近くにわかる地名は……あった。

「ローテルロー橋の近くなんだ?」
「そうだ。また今日も移動する」
「今日?」
「ここはいつ誰が来るかわからない。だからあまり長居はできないんだ」

あ、前にアッシュから聞いたことあるな。

「森とか山とかにある誰でも使っていい小屋?」
「……よく覚えてたな?」
「アッシュが教えてくれたことだもん。忘れないよ。全部覚えてたいし」

少し得意気に胸を張った。
アッシュから聞いたことは忘れないようにいつも日記に書いていたし、会えない日が続いて寂しくなってきたときは、それらを眺めて会った時のことを思い出して寂しさを紛らわせていたんだから。

……アッシュにはそんなこと言ってないけど。


その寂しさをもう感じなくてすむんだと思うだけで嬉しい。


「そうか。でもこれからは全部を覚えるのは無理だな」
「む。なんで」
「ずっと一緒にいるんだから全ては覚え続けられねぇよ。次々新しいことがあるんだから」

少しむっとしたけど、その通りかもしれない。
これからはアッシュといられるんだから、毎日違うことがあるはず。

「……忘れちまうのはもったいないけど、うーん、それならいっか……?」

納得したらお腹が減ってきてお腹がぐ〜っと鳴ってしまってアッシュに笑われた。