本文へスキップ

林檎は苺で薔薇は小説・イラストを扱うファンサイトです。

お問い合わせはCONTACTよりお願いします。

鳥籠にさようならprivacy policy

鳥籠にさようなら 7


連れてこられた場所は正直わからなかった。
扉が開かれるとそこには同じ年頃の少年少女たちが所在無さげに立っている。
多くはないが少なくもない。
アッシュは牢屋に入れられることも覚悟していただけに肩透かしを食らった気分だ。

「おまえらも身寄りがないっていう理由で連れてこられたんだろ?」

扉が閉まると近くの壁に背をつけ座っていた少年が、立ち上がりながら行った。

「え? うん」
「まったく冗談じゃねぇよなぁ。好きで1人になった訳じゃねぇし。俺はブウサギ達の世話の途中で連れてこられたんだけどさ、これでブウサギ逃げてたら俺はこれからどう生活しろってんだ。なぁ?」

周りの少年少女達も頷いた。

「まぁ俺たちはもう終わったから、お前らもすぐ済むんじゃねぇか?」
「どんなことを聞かれるんだ?」

アッシュは何気無く聞いた。少しでも情報が欲しかった。
聞く所によると、基本的なことしか尋ねられないようだ。
親の名前から始まり出身地、身寄りがなくなった理由となぜ今の場所の落ち着いたのか等々。

「でも、あれだけは嫌だった」
「あれって?」
「なんか、よくわかんねぇ音機関に繋がれるんだよ。何調べてんのかしらねえけど、なんか体がざわざわした」

ルークは触れていたアッシュの肩が揺れたのを感じた。


しばらくすると部屋にはアッシュとルークだけになった。
アッシュは何も言わなかったが、音機関に繋がれたらダメなのだということはわかった。

でも、どう避けたらいいのかわからない。


「アル……怖いよ」
「俺もだ。でもなるようにしかならない。もしもの時はお前だけでも逃げろ」

ルークはびっくりしてアッシュを見た。

「いやだ……一緒に」

唐突に扉が開かれたのでルークは口をつぐみ、来るようにと言われたので素直についていく。
しばらく歩くとまた部屋に入れられた。

中には白衣の者が多かったが軍人もいた。
もちろん、ここに連れてきたジェイドという男も。

そのジェイドに座るように促され、聞いていた通りの質問がされた。
こういう時のために自分たちのバックグラウンドを決めていたので、特に詰まることも矛盾もない。

30分後、一通り質問が終わった。

「では1人ずつそこの台に横になりなさい」




――きた。




「……壊す気はないが、壊れても文句を言わないなら、いい」
「アル?」

ルークは驚いた。

「おやおや、音機関と相性が悪いんですか? この機械はそう易々と壊れませんよ」


アッシュは立ち上がって台に横になった。不安そうなルークが目に入る。
あえてそれを思考から追い出し、目を閉じた。
機械に繋がれていくのがわかりそれに伴い胸の中はざわざわと落ち着かなさを増していき、落ち着け、と自分に言い聞かせ深く息をする。



ふと視界が影になったように感じて目を開けた――のが間違いだった。



白衣が目に入った瞬間に記憶がフラッシュバックする。





『さぁ、ルーク様。定期検査を始めましょう』




痛い 怖い




『いつもと同じことです。貴方様の力は素晴らしい。研究すればもっとこの国は豊かになるんですよ』




逃げられない




『まったく本当にこれは人間なのか?』




おれがきこえてないとおもって




『まぁそんなことはどうでもいいさ。研究対象としてこれ以上のものはないんだ。出力上げるぞ、押さえてろ』






「あああああっ!!」

自分の声でアッシュは一気に現実に戻った。


(違う、この音機関はあれとは違う!)


「カーティス大佐!」
「どうした」

振り向いた者は驚愕に顔を染め、叫んだ。

「何か、何かはわかりませんが、少年から逆流してきます! このままではもちません! 最悪、爆発します……!」

アッシュの体はみるみる光に包まれていく。
ジェイドはアッシュに「やめなさい!」と鋭く言葉を発した。
だが、アッシュはそれどころではなかった。

力が制御できないのだ。
誘発された記憶が引き金になり、暴走した力は止まらない。

「……っ!」

機械とアッシュとを繋いでいたコードが光の粒になって消えた。


(駄目だ、抑えられない!)


「俺から、離れろ!!」


アッシュは叫んだ。
もちろんルークに向かっての言葉だったが、全員逃げて欲しかった。

誰もこの力で傷つけたくない。
きつく歯を食い縛り力の奔流を押さえつけようとするが、力は膨れ上がるばかりだ。

自分からも光が立ち上ぼりだした。
視界に入る髪がだんだんと本来の色に近付いている。


(術が……分解されだした。まずい、このままだと周り全てを分解してしまう)



「アッシュ!」
「くるな!」

アッシュの静止に一度ルークは足を止めたが、意を決したようにアッシュに駆け寄り触れた。

「ぅ、あぁっ!」
「ルーク……!」

アッシュに触れた瞬間にルークの術は解けた。
鮮やかな髪が舞い緑の目は濡れている。
アッシュもまた完全に本来の色彩に戻っていた。

「ねぇ、どうしたの!?」
「離れろ、力の制御ができないんだ!」
「いやだ! 絶対離れない!!」

ルークが力の限り抱き締めてきた。
泣いているからかいつもより温かい体を無意識に抱き締めた。
突き放してでも、自分から離すべきなのに。

唐突に力の奔流が弱まる。溢れるそばから霧散していると言ってもいい。
気付くとルークもまた光を放ち始めていた。


(まさか、これはルークが?)


確認する余裕などない。



(今を逃せばこの力は放たれてしまう)


ふいに狂暴なまでの光が失せ、ジェイドはかざしていた腕をどけ目を見開いた。





「……なんということだ」

重なるように倒れている2人の子供は、先程までとは違い、自分たちが探していた人物そのもの特徴を持っていた。

「カーティス大佐!」
「騒ぐな。至急本部に連絡し指示を仰ぐ」

(赤い髪……。ここまで鮮やかな赤色で、この年頃……。しかしなぜ)

2人なのか。
ジェイドは考えることを後回しにし、素早く2人の状態を確認し、気絶しているだけだと判断し息を吐いた。