「ロイド、どこまで行くのだ」
「ん、もうちょっと」
話がある、と連れ出されて半刻ほど。
人気のない所を選んでいるのか周囲には自分たち以外の気配はない。
そのまま数分無言で歩く。
どちらかというといつも朗らかに喋りかけてくるロイドが黙々と足を進める様は、とても珍しい。
「……ロイド」
このままでは歩き続けかねない雰囲気であったので少し咎めるような声になってしまった。
するとロイドはぴたりと歩くのをやめて、その場でとまる。
やはり、ロイドらしくない動作だった。
「ロイド、一体どうした? 今日のお前は……」
「うん……」
やはり背中を向けたままこちらを見ない。
それが気になってはいるがロイドの雰囲気がいつもと異なるからか指摘することは躊躇われた。
何をしようと、または言おうとしているのか?
皆目検討もつかずロイドの行動を待つ。自分から動いてはいけない、そのような気さえするからだ。
しばらくはやはり無言のままだったが、唐突に「俺とあんたの関係を言ってみてくれ」と求められた。
酷く、緊張した声だ。つられてこちらまで緊張しそうなほどの。
何をそんなに不安に思っているのかこれで分かった気が、した。
「……親子、だ」
言って、身長の割りに細い体を抱きこんだ。
ロイドは接触に少しびくりと体を揺らせたものの、振り払うことなどはしない。
強張った体の力を抜いたロイドの重みを感じる。
「親子が、こんな風にしないってことぐらい……俺にだって分かるぜ」
「そうか」
「うん……。どうしてクラトスはこういうこと、するんだ?」
こちらを向こうとしたロイドの顎に手を添えて、至近距離から囁いた。
「愛しいからに決まっている」
「息子としてか?」
「それも含んだ上で、だ」
お前は? と聞き返すと打てば響くように好きだという答えが返ってくる。
「なんでだろう……。なんで好きって思うんだろ? クラトスは父さんなのに……」
「何故、か……。お前は何故だと思う」
「わかんねぇ。でも、好きなんだ」
少し前から二人の関係は変化してきていた。最初は他人だと思っていた。少しずつ信頼を寄せ、一度崩れた。
その崩れおちた欠片に埋もれていた親子という事実。
そして今は。
「でも、これってやっぱり変なんだよな……?」
「否定はしない。……だがおかしいからといって軽く捨てられるものなのか?」
ふるりと頭を振って否定する。
それでもやはり引っかかるところはあるのか少し遠くを見つめるように視線を流した。
「どうしても好きなんだ。……でも、俺たちでそんなのおかしいって思う。
俺もあんたも男だし……というか親子だし……。それに、母さん、のこと、思うと……」
「……」
アンナ……お前は私を、どう思うだろうか。考えたことがないでもない。ただ、それでも。
後ろめたい気持ちも勿論、ある。
そうは思えど、ロイドを愛しいと思う気持ちの歯止めになるかと言えば、否だ。アンナに対して申し訳なく思う。
ロイドに対してこのような気持ちを抱くことになろうとは予想だにしていなかったが、実際こうなっている。
どんな言い訳も、言い逃れも、できない。
「そう、思うのに……でも、やっぱりそれでも……好きって思っちまう俺は……ほんと、どうしようもねぇよな……」
自嘲するように言葉を吐き出すロイドをただ、抱きしめることしかできなかった。
ダメだと思いながら、それでも気持ちが消えないことへの困惑。
ロイドはまだ吹っ切れない。クラトスが好きで好きでどうしようもないのに、親子だからもやもや。
クラトスは諦めた(気持ちに抗うのを)。抗おうと足掻いてみたもののロイドへの感情を殺せなかった。
2013、8・14 UP