しばらくそのままの体勢でいたが、アッシュが身じろいだのを切っ掛けに離れた。



「……行くぞ」

「うん……」



どうやら一緒に行ってくれるようだ。お互い体が弱っていることもあり、それが最善だと思う。

立ち上がりズボンについた汚れを払ってアッシュに続く。アッシュの超振動により難なく扉は消え去った。

その残骸をなんともいえない思いで横目に見つつ通り過ぎそれからしばらく無言で歩く。

アッシュは迷いなく進んでいくのでこの構造の情報をどこからか入手しているのかもしれなかった。



「俺はあいつらと合流する気はねぇ。それでも来るのか」



正直、躊躇った。皆と合流したい。だが、アッシュと共に師匠を止められるならそれに越したことはないのだ。

……俺達の師匠だった人、仮初の教え子だったと知った今なお師匠だと思ってしまう人を俺達の手で。



「俺は、アッシュと行く」



それにちらりと視線を寄こしてアッシュはさらに歩を進める。

大きな道ではなく小道を行く。抜け道だろうか、細く足場の悪い所を何か所か通った。



少し開けた所に出る。そのまま進もうとした俺をアッシュの腕が遮ったのでアッシュにどんとぶつかってしまった。

見ると、少し遠い所にシンクが空を睨むようにして佇んでいる。

どうするのか、とアッシュを見るが表情は伺えなかった。



すると、アッシュは「お前は来るな」と言ったので、小さく頷いてシンクから見えないだろう所に身を潜ませた。

音のみを頼りにアッシュの行動を追う。



アッシュは硬質な足音を隠そうともせず近づいていった。



「ヴァンか俺か、どちらにつくか……心は決まったか」



そうだ、シンクはアッシュにも情報を流していたのだった。これは以前回線を通じ聞いたことがある。



「……さぁね。どっちだと思う?」

「知るか。まぁ、ここにいるあたりヴァン寄りだとは思うが。……ヴァンについた所で得るものなどないというのに」

「知ってるよ」



アッシュの顔もシンクの顔が見えないので、はっきりした状況がわからない。

それでも今すぐに戦闘になるようなやり取りには感じられなかった。



「どうしようもなくボクは空っぽさ。生まれた意味が下らなすぎて、存在が曖昧すぎて反吐がでる……」



堪らず飛び出そうになる体を、左手で右腕をぎり、と掴むことで押さえる。

存在が分からなくなる感覚は今でもふいに訪れることがある。

あの感覚は……嫌だ。自分が世界からいらないと言われているような。シンクは常にその感覚に身を包まれているのだろうか。



――たまらない。



「まぁ、そんな曖昧なボクでも、ザレッホ火山から連れ出してくれたあんたとは戦いたくはないんだけど。

……でも、あいつらが来たら戦うだろうね。それを止めたいなら、ボクを、とめてみなよ!」



アッシュが剣を抜くような音が聞こえた。

戦う、のだろうか。



「かかってこい」



今度こそ、出て行きそうになった。

体の重心が移動してまさに影からでそうになった瞬間、キン、と頭の芯に響く感覚。



『来るな!』

(だって、アッシュ……!)

『そこにいやがれ。お前が出てきてもシンクは止まらねぇ。力だけ寄こせ』



え、と思うと同時に体から力が抜けた。



(なに……)

『てめぇの超振動の力を使う』



では今の脱力感はアッシュに俺の力が移譲されたということか。

ずる、と壁に体をつけてしゃがみこむ。常に力が抜けていくような感覚だった。



「アッシュ! なんで攻撃してこないわけ!?」



シンクの苛立った声がする。アッシュが攻撃していない? どういう、ことだ。



「その必要がないからだ」

「そう。ならその気にさせてあげるよ!」



シンクの膨れ上がる力の気配に、まずい! と思い耐えきれず少しだけ2人の姿が視界に入るよう体をずらした。

アッシュに向かって、シンクの秘奥義が迫っていく。

それでもアッシュはそこから動かない。なんで――。





「な……っ」





唐突、だった。

膨れ上がった力は、アッシュに到達する前に消えた、のだ。見間違い……なんかじゃない。

集まった力が消失していた。



「なに……それ。……第二……超振動? なんであんたが……」

シンクが動揺したような声を出し距離を取った。

第二超振動……? ジェイドからちらっと単語だけは聞いたような気がしないでもない。

回線が途切れる感覚がして、それに合わせて力が抜け続けていく感じもふっと消える。

アッシュがちらっとこちらを見たような気がした。





……うわ、気のせいじゃねぇ。今目あっちゃったよ……やっべぇ、怒られる。





その仕草でシンクにも俺の存在を気取られたようだ。

それならばここに隠れている意味などないのだからと、立ち上がりアッシュの方へ移動した。

シンクに攻撃されないとも限らないので注意深く動く。



「……なにそれ。アンタ、レプリカに絆されたってわけ? あれだけ嫌悪してたのに?」

「ふん、誰が。ヴァンをブチのめすには例えコイツだろうがいないよりマシだ。ただそれだけだ」

「ブ、ブチのめすって……」



表現がよろしくないんじゃないんだろうか。



「それにこいつの力を一時的に俺に移せば第二超振動が使えることもわかったしな」



その間、俺は戦うどころか立っていることもできない訳だけれども。

師匠と戦う時、そ、それでもいいのかな……。いやダメだよな……。

それにしてもなんでアッシュはこんなに自信ありげなんだろうか。何か秘策でもあるのだろうか。



第二超振動というものがよく理解できていないけれど、先ほどのシンクの攻撃を無効化させたことから見ても十分戦力になるだろうとは思う。



そうだ、シンク――。

ふとシンクに目をやると酷く複雑そうに顔を歪ませていた。



「本当のバカだね。アッシュ。レプリカと心中する気?」

「なに気色の悪ぃこと言ってやがる」

「そう……それが、アンタの出した答えか……」

「話聞いてんのか」

「うるさいね。もう、とっとと、行きなよ……」



ドサっとシンクはその場に座った。



「ボクの力はもう残ってないよ。あんたもレプリカルークも、止める力はない。行くなり帰るなり、好きにすればいい」

「お前も来い。シンク」

「……アッシュこそ話聞いてるわけ? もう戦えないって言ってるんだけど?」



体に浮き出ていた模様は今はない。

酷く疲弊した様子から先ほどのあれは無理やり発動していたようだった。



「戦えとは言ってない。隙を見てこれを投げろ」



アッシュが何か小さな箱をシンクに向かって投げ、シンクは反射で受け取って目を真ん丸にした。

手のひら程の箱――。それには見覚えがあった。



「封印術……? ジェイドがかけられたやつか?」

「ローレライなんていう反則技を使わせる気はねぇな。ヴァンがローレライの力を行使しようとするなら投げろ。

純粋な剣技勝負なら使う気はねぇ」



茫然とシンクが箱とアッシュを見た。信じられないとその顔はありありと言っている。



「これをあんたかレプリカルークにかけるかもしれないとか、思わないの?」

「思わねぇな」



自信満々にアッシュが答えるので俺は頭痛がしてきた。

そうだった。アッシュはナチュラルに俺様な発言と行動をするヤツだった。得に先ほど戦った時以来それが顕著だ。

何か吹っ切れてしまったのだろうか。……たぶん、そうなんだろう。



「シンク、今のアッシュに何言っても脱力するだけだぜ。……いいから、行こう」



シンクの腕を引っ張って立たせ、マーキングを付けた上で守護方陣を2回展開した。あらかた、体力は回復しただろう。

術を使うことになるかもしれないから道具袋からレモングミを掴んで差し出したがシンクは受け取ろうとしない。

仕方なく口に押し込んだ。



「!? ちょっと!」

「いーから食べろ」



さすがに吐き出すような真似はせずシンクはこくりと飲み込んだ。




















ザレッホ火山からはアッシュが連れ出してたらいいなーっていう願望。




2013、8・14 UP