(ちゃんと戻ったか)
(あぁ、だいじょうぶ。アッシュはおかしな所ないか?)
痛まない頭に感動を覚えながら、ルークは中庭に面する大きな窓に映る自分を見つめた。
今、外は夜の帳がおりている。そのため外の景色よりも室内の自分が鮮明に映し出された。
(なぁ、俺、髪長くなってる。本当に戻ったんだな)
ぱちりと目を開けて、普通に動き出したが、これが〈戻った〉のか〈続き〉なのか実感が湧かなかった。
しかし、切り落としたはずの髪が一瞬で伸びるなど通常有り得ない。
自分の手で持ち上げてみるとさらにじわじわと現実なのだという思いが湧き上がってくる。
(そうか。なら間違いねぇな。俺はカレンダーくらいしか今を区別するものがねぇ。さすがに教団の中を動けばわかるだろうがな)
アッシュもまた疑念を持っていたらしいとわかりやっぱり完全同位体だなぁと密かにルークは感動した。
髪が長い、そして開いた日記の日付からしてもう疑う余地はなかった。
明日、かつてすべてが変化したその日を迎える。
(明日、ヴァン師匠がくる。人形じゃなくて師匠に斬りかかっちまいそう)
ぶっとアッシュが噴き出す気配が伝わってくる。
(しっ仕方ねぇだろ!? エルドラントで決着付けたばっかで目の前に現れるって考えてみろよ!)
(悪い。今ヴァンが目の前にいたらか……俺なら超振動で分解しちまうな)
(それは怖ぇ)
あながち冗談でもなさそうなアッシュの声色にルークは引きつった笑いを零す。
木刀であっても今のルークはありとあらゆる特技、奥義を修め実践も豊富にこなしてきた。体の感じから判断するしかないが、恐らく以前通りの体力と筋力を記憶とともに持ち込めたようだ。
いかにヴァンが強いと言っても、箱入りの軟弱なレプリカと侮り切っている相手に引けは取らない。
(だが、明日は我慢しろ。ぶちのめすにしろ、ぶっ飛ばすにしろ、とりあえず合流してからだ)
(それ、地面に転がすか、吹き飛ばすかの違いしかねぇけど……)
(気にするな)
別にヴァンを庇うつもりもないルークはそれ以上何も言わなかった。考え直してくれるに越したことはないが、それは難しいだろうと理解している。
窓に映る自分自身に手を伸ばすと、ガラスに映る己も手を伸ばしてくる。
これがアッシュだったらどんなにいいだろう。今すぐ会えれば、どんなに。
(明日、ヴァンの妹とそこからでればすぐ会える)
(あ……筒抜け?)
(まぁな)
ちょっと顔が赤くなってしまうが、それも今更だ。ルークの記憶は、アッシュに見られてしまっているのだし、その地面にのめりこみたくなる程の恥ずかしさを思えば、今考えていることが筒抜けであることなど些細なことだ。
(俺にもアッシュの記憶があれば、これからもっと上手く動けるかもしれないのに)
(……いや、それはご免被る。見せて楽しい記憶なんざ、ねぇ)
(俺のだって、楽しくなんかないよ……)
それに対してアッシュは否定しなかったが、なんだか柔らかい感情が流れてきてルークは首を傾げた。
(まぁ、正直キツいものもあるが。それ以上にお前のことが分かって楽しいな。俺が関係する記憶は特にな?)
(ぐぁ)
つぶれたような声を出したルークにアッシュは笑った。