brightly shines ―6―















「な……んだこれ」



これは、想像以上だ。

赤紫色のもやで視界が霞む。これが障気――。ユーリは手を伸ばして指先を見た。指先すら少し霞む。

少し前にいるルークは絶句したまま目を見開いて固まり、他の奴らも(あのジェイドでさえ)似たり寄ったりだ。



ユーリの足元のラピードが怯むように、じり、と少し下がった。



「ラピード……」

「……くぅ……」



ラピードにとってこの環境がいかに辛いかは想像に難くない。

本能はここから逃げろと警鐘を鳴らしているだろう。

それを抑えられるところがラピードがラピードたる所以だが、かなり無理をしてこの場に立っているはずだ。



「お前はできるだけ高い所に……そうだな、皆を見渡せるとこにいろ」



ここよりは幾分マシだろうし、何かあればラピードが察知するだろう。

見張り役も必要だから、一石二鳥だ。

ゆらゆらといつもより勢いなく尻尾を揺らしながら歩いていくラピードを見送ってから、再び前を見るとガイがルークの肩に手を置いていた。



「ガイ……。これ、なんだ?なんなんだよ……」

「瘴気、だな。俺も初めて見る」



イオンが、あ、と声を出し、つい、と指差した。



「みなさん、あの人影……ティアでしょうか?」



霞みがかった視界でははっきり分からないが近づいてくるのはどうやらティアらしい。



ティアは、挨拶もそこそこに今までに得た情報を緊張した様子で報告し始めた。

譜歌も含め、治癒術は気休めにしかならないこと。

坑道の中に取り残された人々の救出を信託の騎士小隊が行っていること。



人手が全く足りていないようだった。



「人手……。ガイ、白光騎士に行ってもらったらダメなのか?」

「俺に聞くかそれを。……フレン」



ガイの視線はルークからフレンにうつる。



「ルーク様が望まれるならそれに従いましょう。お側を護るもの以外、になりますが」

フレンが固い表情ながらも微笑んだ。





どうやらあらかじめリカバーをかけ、そして一定時間毎にかけ直せばしばらく影響はないらしい。

白光騎士の中にはフレンのように譜術を扱えるものが数名いるため、彼らがリカバーをかけて回る。

ルークとイオンには念のため重ね掛けをした。気休め程度だが――若干効力は増すだろう。





イオンはアニスを連れ人々へ声掛けをすることにしたようだ。

ローレライ教団の導師の励ましは予想以上の効果をもたらした。

力ない目をしていた人の目に輝きが戻り、萎えた足に力が通いだす様は、この世界にとっていかにローレライ教団の存在が大きいかを物語っているようだ。



ルークもまた、怯えた様子を見せつつも白光騎士と共に様子を見て回った。

揺れる長い髪は赤で、目は緑。

キムラスカ・ランバルディアの王族だとすぐに分かるそれは、親善大使が訪れたことを瞬く間に広めた。



「おぉ、あのお方は……」

「あの髪……キムラスカの……!」



ざわざわとしだした周囲にルークは居心地悪そうにたじろぐ。

ファブレ邸が世界の全てであったルークにはこの反応が好意的なのかそうでないのか判断がつかないのだ。





「ガイ……」

「大丈夫です。ルーク様。背筋を伸ばして下さい」



無意識に丸まっていた背筋を伸ばす。



「皆、驚いていますが歓迎していない訳ではありません。……ほら、しっかり。自信もてよ」



最後は口を動かさず空気を微かに震わせただけだったが、しっかり耳に届きルークは少し気が楽になったように感じた。

上から視察を始め徐々に下の方へ進む。下へ行けば行くほど霞みは酷くなっていくようだ。



これ以上は進めない――。

救助にあたるオレンジ色が随所にあしらわれた信託の騎士小隊と共に、動けないものを連れて戻ろうとしたまさにその時、横手の坑道から硬質な足音が近づいてきたことに気づいたのはルークだけだった。





「よく来た。ルーク」

「ヴァン師匠……」





この障気の中、にこやかに笑うヴァンに対してルークは何か薄ら寒いものを感じた。





ヴァンは障気を中和できるという。





でもアッシュは。

アッシュはできないと言った。



いや、50人の犠牲の上でなら、と言った。でもそれはできないと同義だ。







「きなさい。障気を中和するのだ」







差し出された手から遠ざかるように、じり、と下がる。

死角のような所に立つヴァンにガイもフレンもまだ気づいていない。

錯乱している住民の対応しているからだ。





自分も死角にいるのかもしれない。皆から見える場所に行かなくては……。





「ルーク。何を怖がっている?何も心配はいらない。私がついているではないか」



腕を掴まれる。引こうとしてもびくともしない。

駄目だ。振り払えない。







「むり、です」



「弱気にならなくていい」

「違う、中和なんて、瘴気を消すことだけなんてできねぇ……。違いますか?」





そう口に出した瞬間ヴァンの雰囲気が一変した。

目に温度が感じられない。





「誰から聞いたか知らないが、余計なことを。いいから来るのだ」

「いやだっ」





引っ張られる。足を踏ん張っても体格と力の差で勝てやしないのだ。







どうしよう。そうだ、声を――。と、思った時。





目の前が真っ暗になった。









「眠れ。レプリカルーク」

















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(逆らえない……おちて、いく)





2010、12・26 UP