「アッシュ〜!お茶しようぜ!!」
ドカンと勢いよく開かれた扉から姿を見せたルークを視界に納めたアッシュは、深い溜め息をついた。
「お前…何のためにメイドがいると思ってんだ」
「ふへ?」
左手にポットとカップを乗せたトレーを、右手にはクッキー(山盛り)を持ったルークの姿に頭痛がしそうだ。
両手がふさがっているということは扉は足で蹴り開けたのだろう。
そういう癖が、何回注意しても一向に直らないのだ。客がいるなら別、だが。
……もう、何も言う気にならない。
「いーじゃん、大目に見ろよ〜」
にこにこと機嫌よくテーブルにカップを並べている姿からは反省の色がまったく見られず、いつも俺の言ってること聞いてんのかコラとか思ったり思わなかったり。
「ほらアッシュ!冷めちまうぜ!」
座れ座れと身振りで示され、仕方なく読書を中断することにする。これでは読めそうにない。
しかし言われるまま席に座ってやるのは癪に障るのでチラリと視線を扉に投げる。
「そうだな……お前があの開けっ放しの扉を閉めてきたら考えてやる」
言った途端、ぴこんっとないはずの耳が立ったように見えた。
(…面白ぇな)
言った通り素直に扉をしめてこちらを伺う顔が。
要望通り扉を閉めたのを確認して、テーブルへと向かう。
それにほっとしたような表情を見せたルークは、ぱたぱた駆け椅子に収まった。
「クッキーな、2種類あるんだぜ!」
なにがそんなに嬉しいのか、ルークはにこにこと上機嫌だ。
「こっちが普通になんも入ってないやつ。んでこっちがチョコチップクッキーな!」
人差し指で示すその先を見ると、確かに2種類あるようだった。
うきうきとプレーンクッキーを摘むルークを見つつ口を開く。
「で?」
「……で?」
クッキーを指に摘んだまま首を傾げておうむ返しをしてくるルークが可愛いと思うあたり自分は末期だろうか。
「味見はしたんだろうな?」
「う…」
その顔にはなんで俺が作ったって分かったんだ、とでかでかと書かれていた。
……分かるに決まってるだろうが。
っつーか味見してねぇこいつの料理や菓子を食べるのは並大抵ではない勇気がいる。
「……したっつーの!」
ぷいっと横を向く姿はどこからどう見ても子供で。
そのまま目だけ、こちらを向く。
「……食べてくんねぇの?」
拗ねたような口調だが、その中には期待と不安がない交ぜになっているようだった。
「誰も食べねぇとは言ってないだろ」
ひょい、ぱく。
「あ」
もぐもぐ……。
「ど……どう?」
ごくん。
「まぁまぁ、だ」
「そっか!やったっ!!アッシュの及第点かくとくーーーっ!」
向かいでガッツポーズを取る姿に笑いを誘われ、くつりと笑うと「何笑ってんだよ!」と噛み付かれる。
が、ルークの顔も笑っている。
他愛のない話とともに、クッキーは確実に数を減らしていった。
平和すぎる1日も、一緒にすごしたい。
2008、12・24 UP