「アッシュ? どしたの? こわいかお、してるよ……。こわい本、よんでるの?」
真剣に本を読んでいると、いつの間にかルークが側にいて心配そうに俺を伺っていた。
あぁそんなに不安そうな顔をするな。
……あんな顔をさせる程に怖い顔をしていたのだろうか、俺は。
立ったまま胸の前で緩く手を握っているルークの腕を引いて隣に座らせる。
ソファがルークの重みで沈み俺の体も少し揺れた。どうやら2人とも揺れたのが楽しかったらしくルークが声を上げて笑う。
「ゆらゆらたのしい、アッシュー」
「あっ、まてっルーク……っ」
ルークが腕と体を伸ばして俺に体重をかけて来る。
だっ……だから、同じ身長体重なんだ、耐えられるのには、限界、が――。
どたっ
「い、て……」
「いた……」
変に堪えたのが仇になって2人してソファから転げ落ちてしまい、慌てて上に乗ったルークを見ると驚いたようにぱちりと瞬きをしていた。
自分の少し痛む背中にルークが下敷きにならなくて良かったと内心ほっとする。
「ルーク、平気か?」
「うん、だいじょうぶ。アッシュは?」
「何ともない。……。」
危ないだろ、と注意しようとしてやめた。
ルークを支えたかったのに支えきれず地面に転がっている自分が無性に情けなかったからだ。
もっと……ちゃんと支えられるようになりたいのに。
子供であることが悔しいのはこんな時だ。
なんとなく今の顔を見られたくなくて、ルークの頭を引き寄せるとルークはそのまま俺の胸にすり、と頬をつけた。
「アッシュあったかい……」
そういうルークの方が暖かいのだが、ふとこういうのは自分ではない者に触れて感じることだからその通りか、と天井を眺めて思う。
俺に懐くルークの髪を一房摘む。伸びてきてわかったことの1つがこの髪色の違いだ。
生まれた時からルークの髪は俺より明るい色合いをしていた。これはレプリカ特有の劣化現象だろうと聞いている。
(……劣化、という表現が気にくわない)
俺の髪はなぜか毛先に行くほどより濃い紅になっていく。
対してルークは毛先に行くほど色が抜けていき一番毛先はまるで金色だ。
つるりとした手触りからして痛みによって色が抜けている訳ではないらしい。
少し腕を持ち上げて陽に透かすと、より金味が増した。
……きれい、だ。
明るい赤から金にかわるこの髪は、本当に焔のようだ。
「何か落ちる音、が……。え、あ、アッシュ様……アッシュ、ルーク? 何してるんだ……?」
「あーガイー」
困惑するガイに向かってルークが嬉しげな声を出した。ちなみに……俺の胸に頬をつけたまま。
ガイが周囲を見渡して「あぁ……」と息を漏らし表情を消した。
「見事に転がり落ちたなー……。ルーク、アッシュを押したな?」
「う、あ……」
「アッシュもお前も、怪我することになるんだぞ」
「ごめんなさい……」
「それはアッシュに言わなきゃな?」
「うん。アッシュ、ごめんなさい……」
ルークが少し顔を浮かせて俺を伺って言ったので「怪我がなかったんだから、もういい」と頭を撫でてやった。
それでも少ししゅんとしているのはガイに怒られたからだろう。
ガイが近付いてきて「ほら、アッシュが苦しいだろ?」とルークをふわりと掬い上げるようにして立たせた。
それによってルークは一瞬体が浮き、わぁっと楽しげな声を上げ、しまったと言わんばかりに両手で口をパッと押さえ、そろりとガイを見上げた。
仕方ないとでもいう風に微笑むガイを認めてもう怒っていない、と判断したらしくほっとしたように手を下ろしている。
そうか、ルークはそういうのも、楽しいんだな……。
いつか、俺もできるようになればいい。
起こすために伸ばされたガイの手を握って、いつかきっと、この手より大きくなって……そしてルークをもっと安心させてやる、と心に決めた。