「ははうえー」
「まぁルーク。その格好はどうしたの?」
シュザンヌは少し驚いて口元に手を添えた。ルークが上から下まで泥だらけだったからだ。
中庭で歩く練習(最近は走ったりしている)をしていることは知ってたが、ここまで泥だらけの姿は見たことがない。
元気なのはとても喜ばしいことだが……どうしたらそこまで汚れるのかシュザンヌには疑問な所だ。
見かねて頬についた乾いた砂を落としているとルークはにこっと笑ってこれまた泥だらけの手を差し出した。
「ははうえ、おはなあげる」
ぎゅっと握られた小さな手に小さな黄色い花が握られていた。
「まぁ」
受け取った花はルークの体温が移りほんのりと暖かく、その暖かさが手のひらから全身に伝わるようだ。
同時に柔らかい喜びも広がっていく。
「ありがとうルーク」
前髪をそっとわけて、まろい額に口付けるとルークは恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに額を押さえた。
見た目はそっくりの2人だが、内面はかなり違う。
幼い頃のルーク――アッシュとも大分違う。
「ははうえ、きれい?」
「えぇ、とても綺麗ね。小さな花瓶に生けましょうか。そうしたら長持ちするかもしれませんね」
「かびん……?」
恐らく初めて聞く言葉なのだろう。
「かびんって? いけるってなに?」
「あらあら」
身を乗り出して興味深々といった感じで尋ねてくる様子が可愛くて、こうして日々成長しているのだと実感する。
この間まで本当に生まれたての赤子のようだったのに、今は3歳くらいの子供のよう。
「そうね、じゃあ一緒に生けましょうか」
「うん!」
かびん、かびん、と嬉しそうに繰り返しながら早く行こうと急かすルークにシュザンヌは柔らかい笑みを浮かべた。