くらりと世界が半回転し、気がついたら地面に頬を付けていた。
訳が分からず一瞬だが呆然とする。
すぐに立ち上がって心配する使用人や兵士に平気だと伝えるが周囲はざわついたままで。
「少し……めまいがしただけだ」
「ですが」
大丈夫だと言っているのに医者を呼ぼうとするので、それならばと邸に帰ることにした。
周りは引きとめようとしていたが面倒なことは遠慮したい。
おろおろと慌てふためいていることを逆手にとってさっさと城を出ることにした。
気付いたやつが大慌てしているが知ったことか。
城から邸への短い道のりを歩いている間、頭をしめていたのは「なぜ?」だ。
体調にはまったく問題ない。
夜更かしをした訳でもない。
一度きりの眩暈だったが心のどこかに引っかかる。
ちなみに眩暈で倒れたことなどは記憶にある限りだがない。
早足で歩く俺に白光騎士が「お体は」と聞いてくる。
この短い時間にもう連絡がいったのか……。
平気なものは平気なのでそう言うしかないのだが……。
……だから、何ともないと言っているだろう。
「お帰りなさいませ。アッシュ坊ちゃま」
「ああ。予定よりはやくなった。ルークは?」
部屋にいると聞きさっさとそちらへと。
白光騎士からラムダスへ城で倒れたことを伝えられる前に移動するに限る。
色々言われることは目に見えているのだから。
それになんとなく……ルークの顔を早く見ないと、という気持ちだった。
中庭を横切り自分たちの部屋へ。
「ルーク、ただいま」
「あしゅー! かえりー」
にっこり嬉しそうに笑うルークはいつも通りに見える。
見えた、のだが……。
何か違和感がある。
ソファから立ち上がってこちらに歩いてくるのもいつものことだが……。
ふらふら……してないか?
「んん?」
ルークも何か違うことに気付いたようだった。
「ルーク、おまえ……」
近づいて頬に触れる。……熱い。
額と額を合わせてみるとはっきりと熱を持っているのが分かった。
至近距離から見ると頬も少し赤いし、目も潤んでいた。
……完璧に熱じゃねぇか!!
「熱がでてる。お前体が重いだろう」
「からだ……」
「しんどいだろ?」
ルークはちょっと考えるようにして、こくりと頷いた。
とりあえず頷いたのかしんどいのを自覚したのかはよく分からないが。
……そうだ、とりあえず寝かせよう。
そしてガイだ。ガイを呼んでこよう。
とりあえず嫌がるのを宥めてベットに横にさせることに成功した。
首元まで上掛けを引っ張ってやると不満そうな目とかちあう。
……なんだよ。
「やー、あそぶ」
「やーって……熱があるんだから遊べねぇだろ」
「あそぶ!」
「ダメだ。ちゃんと治ったら遊べばいいだろ?」
上掛けを跳ね飛ばしかねないのでそっと胸の上くらいに手を置いた。
「治ったらいっぱい遊べる。治らないと遊べない」
「あそべない……。ルーク、あしゅとあそぶ」
「治ったらな」
とりあえず治ったら遊べるということで落ち着いたルークをぽんぽんと叩いて「ガイ呼んでくる」と離れる。
少し寂しそうな顔をしたが、俺ではどうしてやることもできない。
部屋を出て、また少しくらりとした。
そうか。
これはルークの影響か……。
(お前と俺はやっぱりどこかで繋がってるんだな)
時々流れてくる思考といい、今回のことといい……なにかしらリンクしているようだ。
不謹慎だが、少し嬉しくも感じてしまった。