報告することなど何もない。
するとするならば、「変化なし」だ。
「本当ですか〜?隠すとあなたのためになりませんよ」
「しつこい。ないと言っているだろうが」
定期的にルークの状態を見るという名目で訪れるジェイドに、何か気づいたことはないかと聞かれても、変化のないものは無い。
これ以上、いったい何を言えというのだ。しかも何だ、その笑みは。
そもそも本人に聞け、そういうことは。
「もちろん診察のときにルークにも聞きました。
ま、何もないことのは別に悪いことじゃありませんよ。まぁ、遅いか早いか、ですね。
それでは私はこれで失礼します。では」
訳の分からないことを言いながらも、いやにあっさり引き下がったことに何やら薄気味悪さを感じる。
まぁ、ぐちぐち何かを言われてもあれだが。
知らず詰めていた息をはき、扉に手をかけた。
「屑」
「あ。アッシュ。なんだ? え、なんで機嫌悪ぃの?」
「……別に悪くなんてねぇ」
「うっそだ〜。知らねぇの? アッシュが屑っていうときは機嫌悪ぃか怒ってるときだぜ?」
ぐぅの音もでないとはこのことか。
そんな些細なことで自分の精神状態を気取られていたとは予想外だ。
いや、屑と呼ばれている方にとってはまったく些細ではないだろうが。
「え、マジ? マジで気づいてなかったとか……?」
おそるおそる、という感じで聞いてくる姿に理不尽だとは自覚しながらも苛つくのをとめられない。
ルークに、ではなく、自分に、だ。
もちろん、感情が読まれるなんて公爵家の者としてできれば避けたい所な訳ではあるものの、いまさらルークにまでその壁を作る必要はないわけで。
別にルークに感情を読み取られたくらいで俺はいったい何を苛ついているのだろう?
自問自答している間もルークは所在なげに視線をうろうろさせていた。
「え、あ……なんていうか……ごめん?」
「なんでてめぇが謝る」
「えと、なんとなく……?」
なんとなくでほいほい謝るんじゃねぇよ。
「だって……アッシュが怒ってるから……」
「……なんも、してねぇよ。お前はな」
そうだ。ルークじゃない。
ルークに感情を読み取られて……格好悪いと思っている自分が。
…………俺は、いま何を考えた?
格好悪いところを見せたくない? それは。それではまるで。
好きな相手に格好つけたいと願うヤツ、そのものじゃねぇか。
「アッシュ?」
俺が、こいつを?
「おーい?アッシュ」
まさか。そんな馬鹿な。
「アッシュってば!」
眼鏡が聞いていた変化とはまさかこいつの体調ではなく、俺たちの関係のことだったのだろうか?
気付くの遅いアッシュ。
2009、4・18 UP