「なーどう思う?」
危うく、ちょうど嚥下する寸前だった紅茶を吹き出しそうになった。
なんとか飲み込んで噴出せずにすんだものの、気管に少し入って入ってしまって咳こむ。
「ガガガガ、ガイー!?」
大丈夫かっ!と前のソファから自分の横まできてあわあわと背中をさする。
あぁ、ありがとうルーク。
でも原因はお前だぞ。
けほけほと名残の咳が出るがもう苦しい訳ではないからそれを身振りで伝えた。
「ルーク、もう1回、言ってくれるか?」
背を撫でる手を止めて自分をきょとんと見てくる。
「何を?」
「や、何をじゃなくて…俺がむせる直前に言ったろ」
「あー…」
俺の横に座り直して。
「『アッシュが、ちゅーとかぎゅーはしてくれるけどあんまり言葉くれねぇ』?」
「そう、それだ」
そして「どう思う?」と続いたのだ。
体の力が抜けていく程に平和だ。でもなんか面白くないと感じる部分も、ある。
(それはそうだろうなぁ…。俺が育てたようなもんだし、な)
これが親心というものか、と不思議に思う。
「ちゅーとぎゅーはしてくれるのに〜…」
唇をとがらせてソファに懐いてズルズルずり下がっていくルークを見てどうしたもんかなぁと考える。
子守役として使用人としてずっと傍にいた。
いつのころからかその関係は変化して、親友になった。友と兄と親が入り混じったような心情だろうか。
仇の息子だという意識を抱けなくなった、憎めなくなった。
憎みたくなくなった、の方が近いだろう。
誰が、そう誰が。
自分が慈しんで育てた者を憎めるというのだろう?
『ガイ』と『ガイラルディア』に挟まれて苦しくて、結局ルークと賭けをすることにした。
勝って欲しいと、ルークなら勝ってくれると思ったから。
この賭けを考えたのは『ガイ』でこの結果によっての心に決着がつくのは『ガイラルディア』。
そして、ルークは勝った。
ガイ・セシルとガイラルディア・ガラン・ガルディオスの心を1つにした瞬間だった。
「なんでアッシュ、言ってくれねぇんだろ…」
だから俺にとってルークは特別な存在であり、何よりあまりに過酷な経験をし、世界を奔走した子供のささやかな幸せを守りたいと思う。
「んー…」
でもやっぱり面白くないのが本音。
アッシュとルークの関係を反対している訳でもアッシュに対して蟠りがある訳でもない。
ルークを育てた、という自負から来る感傷だ。
でもそんなものルークのためならば押し殺せる。
「言葉がないとアッシュの心が分からないか?」
沈み込んだ頭にぽんと手を乗せて聞く。
小さく横に振られた振動が手から腕に伝わってくる。
「分かるだろう?」
ちら、とこちらを見上げる顔はほんのり赤くて照れているのだと明確に伝える。
「アッシュの…気持ちを疑うとか、そんなんじゃなくて…さ」
「うん」
「言葉が欲しいなんてゼイタクかなー…」
ぽんぽんを頭を叩いて、うんうん悩む子供と難しい気性の相手が上手くいけばいいな、と心から思った。
親の気持ちと友の気持ち。
選択課題・恋する台詞「言葉が欲しいなんてゼイタクかなー…」 お題サイト…リライトさま
2007、9・30 UP