「……おい」



あまりに何も反応せず固まっているルークに声をかける。

体を離して顔を見ると、この世の終わりかというような悲壮な顔をしていた。



「なんて顔してやがる」



そう言うと肩をビクリと揺らして、そろそろとじれったいくらいの遅さでこちらを見た。



「だって……」

「あ？」





また下を見る。





「知っちまったんだろ……その、俺が……お前を…………」

「好いてるってか？」



「……」





その言葉にまた肩を揺らして顔を上げようとして諦める。

吹けば消えるようなそんな佇まいであり、何を言われるか体を固くして待っているその姿。

距離を開けようとしたのをまだ掴んだままだった左肩に力を入れることで阻んだ。



「んだよ……何か、言えよ……」

「何かを言うのはお前だろう」



そう言うとルークは弾かれたように顔を上げた。

「何を？ 何言えっつーんだよ？ もう知ってんだろ？ 言わせてどうすんだよ！」

１回爆発した感情が止まらない。ダメだと思うのに口は止まらない。

――そんな感情が手に取るように分かった。



「言って、それで……それで！

どうにもならないことだってわかってるのに！！　だから俺は、俺はっ……」



離れようとしているのか、力のこもった手がぐっと胸を押してくる。それでも離してやる気はない。



「……言わなかったのに」

ずるずると拳が下がって服を掴む。 そのままルークの顔も下がって左肩に額がつくかつかないかの位置で。

小さな小さな聞こえるか聞こえないかの。







「……すきだ。すき、なんだよ……」







絞り出すようにしたその言葉を聞いた。





左手を持ち上げルークの髪に手を差し込み、引き寄せる。

またもや固まっているがゆるゆると緊張を解いて頭を預けてきた。





「なんなんだよ、さっきから……全然アッシュらしくねぇ……。

なんで……なんで、こんなこと」



先程の激昂と打って変わった、どちらかと言うと泣き出しそうなそんな湿り気を帯びた声だった。

左頬をルークの髪がくすぐるがそれを不快とは思わない。

これが自身の答えなのだろうとどこか他人事のように思う。



「厭わしく思うなら、こんなところさっさと出ていってる。

ここに留まっているのは俺の意思だ。……これがどういう意味か分かるか」

「……わかんね……。だってアッシュ、アッシュは俺が憎い、んだろ？」





心底意味が分からないといったような返事だった。

だろうな、とも思うし、鈍感め、とも思う。





「……ここに来てから少し変わった。心情がな。地上にいたときのようにお前を憎んでは……いない」



１つになりかけた時に知ったのだ。

７年という人生の記憶、その最後の最後まで抱き締めて抱え込んでいたもの、

それは罪の意識と……自分へのひたむきな想いだった。



それを知って、何も感じない訳がない。





同情？



違う。



なぜなら自分の心はそれを知って確かに喜んだのだ。

己すら気付いていなかった。

こいつを自分のものにしたいなどという思いがあるなんて。



ルークの秘めた思いを知りつつも、何も言わなかったのはこいつが隠そうとしていたからだ。

なぜ隠すのか、理由を知りたかった。

同性で、オリジナルとレプリカという事実――それ以上にこいつは何か考えている気がした。



知ってしまった側からすると、ルークの言動の端々には隠しきれない好意が現れていて、

どうにも落ち着かないこともあるが、不愉快ではなかった。







このまま、こいつとここで過ごすのも悪くない。

そう思っていた矢先に「なんでお前はここにいるんだ？」ときた。



もう少し様子を伺うつもりだったが、やめだ。



もう待ってやらねぇ。



















もう一話続きます。（たぶん）





２０１１、５・２１　ＵＰ