メイディッド …上…















小さめのキッチンでぴょこぴょこ動く赤。



「ん〜…これくらいかなぁ……アニスちょっと見てくんねぇ?」

「ご主人様がんばったですの!」

「どれどれー?ん〜…まだ駄目。もっともっと混ぜちゃって!粉っぽくなっちゃっても知らないからね〜」

「…はーい」

「…みゅうぅぅ〜」



カシャカシャと小気味よい音と共に会話は進む。

「ルークったら必死な顔してくるんだもん。何事かと思ったよ〜」

「う。ご…ごめん」



アニスちゃんびっくり!とルークを見る。

その目が説明を求めているから。



「じっとしてらんなかったんだ」

ぽつりぽつりと話し始めた。









ことの発端は昨日。

いつものように食後のデザートに、と出されたケーキだった。



ルークはいつもこの最後に出てくるデザートに目を輝かせる。

ケーキであれ、ムースであれ果物であれ、だ。

『わ、美味しそう…』

『ふふ、本当にルークは食後のデザートが好きね』

『はい、母上!』



こんな会話も日常茶飯事な訳で。



その日は艶やかなチョコレートでコーティングされたケーキだった。飾りとして乗せられた小さなチョコレート片には金粉が散らされ、なんとも上品な一品。

その綺麗さは、しばし食べるのを忘れるほど。



ひとしきり眺めた後、それを口に運ぶ。





『……っ!』



美味しい。







なんだこれ!めちゃめちゃ美味しい…!





『相変わらず、わかりやすい奴だな…』

『だってアッシュ!これ……!』

『……まぁ美味いのは確かだが』

『!?アッシュ、美味しい!?』

『…?あぁ』

『アッシュが……っ』



美味しいって言ったーっ!









「…でアニスんとこ来たって訳」

「ですの!」



「へー。アッシュが…。よっぽど美味しいケーキだったんだぁ〜いいなぁ」

やっぱ玉の輿に乗らないと、と呟かれたのを2人(?)は聞かなかったことにした。



「そこであたしの所に来る辺りがルークだよね…」

「…?」

何が?と首を傾げるルークの仕草に、あーも〜何歳!?と言いかけてまだ10才になってないことに思い至って脱力する。

「……ふぅ」





「アニス?」



「バチカル…ってゆーかファブレ邸にも料理上手い人いっぱいいるのに、あたしのとこ来るのがルークっぽいって話」



「あ」



忘れてた、と言わんばかりにぽかんとする。

だが、ふと気がついたように。





「でも…」



「気付いててもアニスんとこ来たと思うよ」

教えるの上手いもん。



そうして、にこっと笑うから。

あぁルークは今ちゃんと幸せなんだ、と再確認して。

「っわ!?」

自分より高い位置にある頭を髪を掴むことで引き寄せて抱きしめた。



「…??」

「よかったね、ルーク」

「よく分かんねぇけど…ありがと……?」



くすりと笑ってぽん、と頭を緩く叩いて離した。



「今日のアニス、なんだか分かんねぇことばっかりだ」

「そう?あ、ルーク生地それくらいでいいよ」



「え?あぁ」







慣れないことに悪戦苦闘している、やっと幸せを見つけた子供を見る目はどこか優しかった。







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アッシュが回想にしかいない…!

「メイディッド」は、ぽにゃ語…造語です。

2006、8.17 UP