答えなんて得られないと分かっていても聞かずにはいられない。
どうしたら、どうすれば。
『……イド……』
ゼロスの声がしたから目の前のゼロスに何と問いかければ、俺じゃないと言われた。
ゼロスの視線は輝石へ注がれる。まさか……。
信じられない気持ちでいると、すう…と半透明のもう1人ゼロスが俺の目の前に現れた。
『……なんて顔してんだ』
「ゼロ、ス…」
『ずっと、見てたぜ。おまえらのこと。ロイドが俺のことで苦しんでたのも。……悪かった』
過去の俺もゼロスも仲間たちも驚きすぎて動けない。アリシアと同じだ。やはり輝石の中に縛られている。
「ゼロ、ゼロスっ俺っ」
『何も言うな。……言ったろ。見てたって。さっきそこの俺さまに言ってたことなんだろ。ロイド……その輝石を持って帰れ』
「でも、でもそれは……」
ゼロスにゼロスを壊させるということだ。
『それでいい。いいんだ、ロイド。……俺の本当に最後のわがままだ』
そう言われても納得なんてできない。いくら2人のゼロスがそれを望んでいても、そんな残酷なことをさせてはいけない。
ぐるぐると頭の中で回る言葉は口から出てくれず、その間にゼロスは「ゼロス」に向き直っていた。
『この輝石を……俺を、砕いてくれ』
「……言われなくても」
剣を抜きかけたゼロスの腕を止めた者がいた。「俺」だ。
「まてよ、それはダメだ」
「……なんでよ。これが一番いい方法だぜ」
その言葉に「俺」が溜息をついて首を振った。
「ゼロスが良くても俺はよくない。そんなことさせたくない。あっちの俺にとってはもっと全然よくないんだ。だから……だから、俺が、壊すよ」
その言葉に驚いたのは俺だけじゃなかった。
弾かれたように2人のゼロスが過去の俺を見ている。そんな中で「俺」が俺を真っ直ぐ見て言う。
「ゼロスに輝石を壊せって言われたんだろ?お前は俺だ。だから俺が壊してもいいはずだ」
「……いい、のか?」
聞き返すと過去の俺は困ったように首を少し傾げた。
「正直、いいのかって聞かれたらあんまりよくはねぇけど……。お前ができないなら俺がしないとダメだ。そうだろ?」
そうだ。これは俺がしないといけないこと。
でも。
「俺は……」
どうしても、できないんだ。
口に出していないのに過去の俺は「分かってる」と頷く。
「お前ばっかり辛い思いするなんて不公平だ。おまえのおかげで俺はゼロスを倒さずにすんだ。……だから」
俺が壊す。
そう目が言っていた。
「ロイド!」
「ゼロスがお前を壊すのだけはダメだ。……俺でもいいか、ゼロス?」
『……』
「ゼロス」は顔を歪めた。
「言っとくけど、ゼロスにゼロスに壊させるのだけは許さない。……壊してやれるのは、俺しかいないんだ」
「ゼロス」は俺と「俺」を交互に見た。
『……いいぜ。結局、ロイドに押し付けちまうことになった、な。……ロイド』
「ゼロス」に呼び掛けられて体が揺れた。
それを見ていた過去の仲間達とクラトスは、この出来事がいかにロイドの心の奥深く、突き刺さっているかを思い知った。
そしてそれが生涯癒えぬ傷であることも。
『俺はお前の手にかかって死ぬことを望んだんだ。そして俺を殺させた。……お前の罪じゃない』
「ロイド」は双剣を抜いた。
『じゃあな。ロイド……』
輝石に向かって構える。
「ゼロス……!」
一閃。硬い音がして輝石が砕け散る。ゼロスの姿もまた、霧散した。
かけらはくるくると回り、2人のロイドの右手――エクスフィア――に吸い込まれていく。
『……最後に、ハニー達にプレゼントだ……受け取ってくれよな……』
微かな声と共に、完全に気配は絶えた。
そして2人はあることに気付いた。ゼロスの技と術をそれぞれ引き継いだことを。
過去のロイドは、技を。
未来のロイドは、術とそれを使うために必要なマナの扱い方の知識を。
あまりの衝撃にぼんやりしていたが、今度こそマテリアルブレードがもうここにいられないことを伝えてくる。
ハッとして引き抜くと眩い光と共に周囲が見えなくなった。
「……行くのだな」
周りが白に塗りつぶされた中、クラトスだけ認識できる。
なぜかと疑問に感じたが、クラトスはオリジンの封印そのものだったのだから、それも当然かと唐突に思いあたった。
「あぁ、クラトス。俺はもうこれ以上ここにいられない」
「お前は……後悔しているのか」
過去を変えてしまったことを言っているのだとすぐに分かった。クラトスは本当に鋭い。いや、俺がわかりやすいのかもしれないけれど。
「……過去を、起こったこと変えるなんてダメだって、ずっとそう思ってたし皆にもそう言ってた。
だから今、俺のしたことは……許されないことだ。でも、多分俺の世界では何も変わってないと思う。
起こったことは変えられない。過去が変えられるなら、ミトスがあんな風になることもなかったはずだ。違うか?」
「……。その通りだ。お前は……全て理解した上で行動したのだな。ならば私が言うべきことは何もない」
クラトスは俺にこの結果が未来に反映されないことを気付かせるために来てくれたのだろう。
「ありがとな。クラトス……元気で。またな」
あと百年弱経たないと会えない人。
しかも完全な天使でもない自分はどうなっているか分からない。
送りだす時も切なかったが今もまたどうしようもなく悲しい。
また、会おうな。
気がつくと小さな世界樹ユグドラシルの側にいた。
一瞬夢かと思ったが自分では思い通りにできなかったはずの羽が自分の意思で消すことができたことで夢じゃないことを実感する。
ゼロスの知識がマナの扱い方を教えてくれる。それが辛く、そして嬉しかった。ゼロスの輝石のかけらは俺のエクスフィアの一部となり、新しい力を与えた。
色々なことがあって意識が上手く働かない。
あの世界のゼロスは今も生きているだろうか。どこかこの世界じゃない所で。
どこかで元気に、していてくれれば。それで……俺は。
2013、2・13 UP