いらいら。
いらいらいら。
これといって変わったことはない、普通の日。
そんな中、不機嫌極まりないといった雰囲気を纏う者がいる。
(ちっ……落ちつかねぇ……)
珍しくも公務がなく、ゆっくりと羽を伸ばせる絶好の機会であるというのに。
この憂鬱な気分を変えるためにわざわざ書庫に来たが、苛つきは増すばかり。
一体何だというのだ、今日は!
「くそ……っ」
分かっている、分かっているのだ。この苛つきの原因は。
認めたくはないけれど。
アッシュは仕方ない、とでも言いたげな溜息を残し、数冊の本を選び出し自室へと引き返した。
「ただいまー。アッシュ?入ってい?」
ノックと共に問い掛ける。
返事が返ってきたので扉を開けると、本を読んでいるであろうアッシュの背中が見えた。
「アッシュ?」
「……なんだ」
ルークを見ようとしない背中からは怒っているような、怖い、ような。そんな雰囲気を感じる。
(んー…?俺、何か怒らせることしたか……?)
昨日、今日の行動を振り返るがまったく思い当たる節はなく。
(え?え、え??何だ?)
どうして不機嫌なんだろう。どうしたんだろう。俺は何か、してしまったのだろうか。
(えーと、えーと……こういう時は自分に置き換えて考えてみればいいんだよな……)
アッシュが悪いことしてないのに俺が怒ったり苛々する時……。
なんだろう。
なんだっけ。
あれ?何かある気がする。
なんだっけ。
(……あ)
もしか、して。
「俺がいなくて、さみしかった?」
ぽつん、と問い掛けてみる。
しばらく間を置いてアッシュが振り返った。
「寂しくはねぇが、物足りんな」
苦笑いと共に紡がれたあくまでアッシュらしい答えに笑ってしまう。
「…やっとこっち向いてくれたな」
ゆっくり近づいて椅子に座っているアッシュの膝に乗り微笑む。
ぎゅ、とアッシュの頭を抱きしめて。
「ただいま。アッシュ」
抱き締めたまま、ほぅ、と息をつく。
「あ〜……アッシュ落ち着くー……」
「奇遇だな。俺もだ」
お互いぎゅっと抱き締めての会話になんだかおかしくなって笑う。
小さく笑い続けるルークの顔にキスを降らせて。
「今日はもう何もないんだろう?」
「うん。終わった」
満足げに細められた目にルークもキスをした。
「なら付き合え」
「休憩に?」
「そうだ」
「いいよ。俺も疲れちゃった。それにアッシュと一緒じゃねぇと、俺、休憩できねぇし」
「……奇遇だな。俺もだ」
さっきと同じ台詞に、また笑った。
――君がいないと、休憩もできないんだよ。
お互いが休める場所であるといい。
選択課題・恋する台詞「俺がいなくて、さみしかった?」 お題サイト…リライトさま
2007、11・18 UP