ナタリアが来るということは昨日ラムダスに聞いていたはずなのに。

あぁ、もう! 寝坊したーーーっ!!







「まぁ、それじゃあ今まで寝ていたんですの?」

口に手を添えてコロコロと楽しそうに笑うナタリアに、笑うなよ〜と言いつつも悪いのは自分なので強くは言えない。

テーブルに肘をついて顎を左手に乗せる。膨れっ面なのは大目に見てほしい。



「ルーク」

「んぁ?」



ナタリアの右手がこちらに伸びてくる。

なんだ?



「ふふ……寝癖がついてましてよ?」



そういって頭を撫でつけてくるナタリアの手。

ちょっと恥ずかしいけれど、全然イヤじゃない。ガイとはまた違うふわふわと直してくれる感触が懐かしい。

あぁ、そういやよく癇癪を起こした俺をこうして宥めてくれたっけ……。

ナタリアも同じ考えにたどり着いたようで、目を細めている。





「懐かしいですわね。あなたはよく私の所に逃げてきましたもの」





ナタリアが屋敷に来たときは難しいことばかり言う教師も何もいわなかった。

それを理解してからはナタリアが来るたび、ナタリアにくっ付いて離れなかったのをぼんやりと覚えている。

約束を思い出して下さいましね、と言われると気持ちは重くなったが、それでも。



「だって意味不明のことばっか教えようとすんだぜ。うぜぇっつーの。……あんま覚えてねぇけど」

覚えてない、の所でナタリアは不思議そうに首を傾げた。



「毎回のことでしたのに、覚えていらっしゃいませんの?」



「ん?いや、覚えてるけど……なんていうか…こう、もやがかかってる感じ。

この記憶は夢で見たことだっけ? 現実だったっけ? ってさ」

「まぁ」



頭を撫でていたナタリアの手が頬へ移動する。



「そういう記憶、私にもありますわ。3歳くらいまでかしら……その辺りまでの記憶はそんな感じですもの。

……貴方は本当にあの頃、幼かったのですわね。

今思えば分かることですのに、なぜあの頃は別人だと思わなかったのでしょう……」



「ナタリア……」



「以前のルークとはまったく違ったのに。貴方が戻ってきたということにばかり執着して。

髪の色だって違いましたのに……」



自分を責めるような言葉を並べるナタリアにどう言葉をかけたらいいのか分からない。

どうしよう。どうしたらいいんだろう?





頬に添えられたナタリアの手に自分の手を重ねるくらいしかできない自分に腹がたった。





その時。





「別人かどうかは調べただろう。だが俺とそいつは完全同位体なんだ。

音素振動数もまったく同じ結果が出ればそれは『ルーク』だ。……別人でも、な」

「ア……ッシュ」



近づいてくるのが見えていた俺とは違って、気づいていなかったナタリアは少し驚いたようだった。

目を軽く見ひらいてアッシュを見上げる。

アッシュは少し躊躇ったあとナタリアの頭を少しだけ撫でた。



するとナタリアは少し笑って。



「なんだか私たち、兄弟のようですわ。アッシュが一番上で次が私、そしてルーク、という具合に」

「俺の方が年下なのにか?」

「おっ俺一番下!?」





不思議そうに言うアッシュと心外そうなルークの対比に、今度こそナタリアは笑いが止まらなかった。

















ルークは「…ってことは最低でも俺とアッシュは2才差かよ!」とかズレたこと考えてる。





2009、4・27 UP