「クラトス?」



ふいに呼びかけられフッと意識をロイドに向ける。

少し身動ぎしたが片膝を地面に着けていたから、体ごとは向きなおれず首だけ少し動かすにとどまった。

視線はかわらず一点を見つめたまま、なんだ、と返す。



「いや、別に何でもねぇけど。何見てたんだ?」



不思議そうにクラトスの左側に屈む込んだ。

そしてクラトスの視線を追ってみると。





「花?」





小さな小さな白い花だった。

別段珍しい花ではなく、森や道の隅っこでひっそりと咲いているもの。

街や村でもちらほら見ることができるいわゆる――雑草の。

クラトスがこの小さな花を見つめることを意外に思いつつも、ロイドはちょっと少し嬉しくなった。



「あぁ、こいつを見てたのか。きれいだよな」

「ああ」

「名前は知らねぇけど、俺この花結構好きだぜ。いろんなとこに生えてるよな〜」

「知っている」

「だよな、どこでも咲いてるもんな〜」



そこで初めてクラトスの視線がロイドに向けられる。

それを感じたロイドが、ん?とクラトスを見ると予想外にも、柔らかい表情をしているクラトスと目が合った。



「どこでも咲くことを言ったのではない」

「え」

「お前が、これを好いていることを知っている」



……そちらだと思ってもみなかった。

しかもクラトスが知っているという。そんなに自分はいつもこの花を見ていただろうか?

思い返してみるが覚えがない。無意識に見ていたのかもしれないが……。







「……幼いお前はこれが好きだった」







ハッとなった。

自分が覚えていない、小さな頃のこと。



「そ……か。俺そんな小せぇころからこの花好きだったのか」

「そうだ」



覚えてなくてなんだか申し訳なく感じる。

でも、それよりなにより。



「クラトスは覚えててくれたんだな。……なんか、嬉しい」



小さな花が揺れる。頼りなげに見えるそれは見た目だけ。



「忘れることなどあり得ん」



かつて小さな手で差し出された小さな花。

受けとった時のあの暖かさ。



ずっと忘れたことなどなかった。







「そういやさ、この花見た目よりしっかりしてるよな。

どこでも生えてるし踏まれても枯れないで花咲かすんだぜ?」

「そうだな。……まるでお前のようだ」



……今度こそ絶句した。

















クラトスは、時々……とんでもないこと言うんだよなぁ(ロイド談)





2009、3・21 UP