そわそわ。
そわそわそわ。
「…さっきから何だ」
「な、なんでもねー」
…そわ……。ちらり。
―何でもない奴がそんな分かりやすくそわそわしねぇだろ。
―な!そわそわなんてしてない!!
ケセドニアまで足りない道具、食材を買い出しにきた二人は延々こんな会話を繰り返していた。
周りには兄弟か双子が微笑ましいやり取りをしているようにしか見えない訳だが、当人達は気付くはずもなく。
今日も平和だねぇ。うん。いいことだ。
なんて会話をする店主らのすぐ前を赤毛の二人が通り過ぎて行く。
「アッシュー」
「だから何だ!」
「ってお前歩くの早いんだもん。…話しもできない……」
ぴた。
「狽っ!」
下を向いていたルークはまともにアッシュの背中にぶつかった。
「いきなり止まったらびっくりするだろ!」
「どっちなんだお前は…」
溜め息ひとつ。そうして振り返った。
「?…何が?」
「話しがしたいんだろう」
「あ…」
だから止まってくれたのか。
嬉しい。う、嬉しいけど…。
これはこれで恥ずかしい…!
「あ、や、そんな大事なことじゃないんだけど、でも大事…って、そ、の…」
あー絶対、じぶんのかお、まっかだ。
「手、繋がせて。駄目?」
ちら、とアッシュを見る。顔は下を向いているので自然、上目づかいになる。
…自覚はないが。
言ったらさらに恥ずかしくなった!うわ、最高に恥ずかしい!!
人通りが少ない所で本当に良かった!!
「……手?」
「だって久しぶりに外に来て嬉しいんだ。……だめ?」
「今、か?」
「今!帰ってからじゃ…もちろん帰ってからも繋いで欲しいんだ、けど……とりあえず今!繋ぎ、た、ぃ…?」
疑問系になったのはアッシュに腕を掴まれたから。
ぐいぐい引っ張られてく。痛くはないけど…。
「ど、どこ行くの?」
「………」
無言!怖ぇ!え?怒らせた!?
わたわたしている間にどっかの建物の裏に連れてこられた。
え?なんで??
「あ、しゅ?」
どうしたの、と言う言葉はアッシュに吸い込まれてしまった。
ふれるだけのキスをして半身の顔が離れていく。
…って、え?
なんでキス?キスしてくれて嬉しい……狽カゃなくって!なんで今??
びっくりしているルークの心を読んだかのように、言う。
「手を繋ぎたかったんだろう?」
口の端をつい、と上げて静かに笑う。
―…こういう時のアッシュは何か良からぬことをしようとしてる時だ。
嫌いなものを食べさせられた(しかも自然に)ことは記憶に新しい。
分かっているけれど逃げるに逃げられない。
背中越しに壁の感触を感じるから。
「ぅ、うん。繋ぎたいって言った……っや」
アッシュの左手がするりと腰に回され、右手は左手を捕まえた。
「これでいいんだろう?」
「ぅ、あ。ちょ…なんか違う…」
確かに繋いでるけど。
「ん…」
今度はゆっくりと顔が近づいて重なった。
アッシュとキスするの、好き。
気持ちが溢れそう。
アッシュ、アッシュ。
「…ふ…ぁ……」
深くなっていくそれに思考が溶けていく。ふわふわした気持ちでいっぱい。
好き。
アッシュ大好き。
「ぁ…ん…っ………ぁ…」
ルークから零れる甘い声に満足しつつ、離れるのは名残り惜しいと言わんばかりに唇を、溢れた雫を舐めとっていく。
「は、ぅ……あっしゅ…」
ふにゃりと力が抜けてアッシュにもたれかかってしまう。
ぎゅっと抱きしめてくれる。それが嬉しくて、幸せで。
頬を擦り寄せる。
朱色の髪をひと撫でして互いの体をふっと離した。
「あ………」
もう少し、くっついていたいのに。
「アッシュ…」
「…そんな顔をするな。帰ったら、な」
「帰ったら…?」
!!!
こ、ここ外だっけ…!
かぁっとルークの顔が朱に染まるのを見て、 笑う。
「仕方ないな。ほら、とっとと済ませて帰るぞ」
「あ…うん!」
差し出されたアッシュの右手を取って歩きだす。
帰ったら…。
……帰ったら。
いっぱいいっぱい、ぎゅうってしてもらおう。
あ、あああ甘い…。ラブラブ!
選択課題・恋する台詞「手、繋がせて。駄目?」 お題サイト…リライトさま
2006、6・22 UP