1回目の説明でルークが混乱を起こしてしまったこともあり、数日後再び訪れたピオニーは言葉を惜しまず、

できるだけ分かりやすい表現を用いて説明をした。

「ルーク」の存在が問題ではないこと、しかし身柄がマルクトにあり、しかも2人であることが事態を難しくしているのだということ。



しかしそれはルークの思いのせいではないのだと繰り返し説明した。



もちろん事前にアッシュもルークへ言い聞かせてある。納得したようなしてないような顔をしていたからもう一押しだ。

アッシュは懇々と辛抱強くルークへ語りかける目の前のピオニーを不思議に思っていた。

自国に関係のないことは言えないが、所詮自分たちは他国の者のなのに、と。





「どうだ? ルーク。わかったか!?」

「う……ん。なんとなく……わかった」

「や、やっとか……良かった……。これでダメだったらお手上げだったぞ……」



ぐったりと背もたれに身を預け天を仰ぐピオニーの頭上からジェイドがひょいと顔を覗かせ、

「いやぁ良かったですね。お疲れ様です」とにこやかに声を降らせ、ピオニーが「お前結局何もしなかったな!」と噛み付いた。



「いやいや。人には得意分野とそうでない所があるんですよ」

「くっそ……」





アッシュは長々と伸びるピオニーに対して感謝の念を抱いた。

ピオニーはルークに――レプリカのルークに変な遠慮も気負いもなく、一人の人として接しているからだ。

だからと言って外見相応のことを求めたりする訳ではない。



ただただ自然体、その一言に尽きた。





「ありがとう……ございます」





アッシュの口からその言葉はするりとこぼれ落ち、小さく頭をたれた。

ピオニーは笑って、何に対して礼を言われたのかわかっているように、こんなの大したことじゃないだろ、と手をぷらりと振る。



そして目を細め、ううん、と腕を組んで唸った。



「だがなぁ、これで問題解決じゃないんだよなぁ……」

「……殿下、俺とルークを隠すということについて、皇帝陛下は……ご存知なのでしょうか。もし露見したら殿下が責任を負わされるのでは……」





「なんだ、負うぞ? それくらい。あと皇帝のことは気にするな。俺がその皇帝だからな」







突如落とされた言葉は2人の頭に浸透するまで多少時間を要し、不自然な間が生まれたが、これを咎めるものなどこの場にいない。









「…………え……」

「皇帝、陛下?」



「あぁ、なんの冗談か知らないが明日の戴冠式をもって俺はマルクト皇帝だ。

父も兄姉達も既にこの世にいないからな。……まったく、ふざけてるとしか思えない」



「た、たいかんしき……あ、あした……!?」



ルークが呆然と繰り返す。



「まぁ準備などで周りはバタバタしているがな、もう俺はあと本番を乗り切ればいいだけだ。な、ジェイド」

「失礼ながら、今の言葉は聞かなかったことにさせて頂きます。血眼で貴方を探し回っている者に顔向けできませんので」

「本来俺を連れて行くべきお前もここにいるじゃないか。お前もこっちが気になるんだろう?」

「……そうですね。否定はしませんが」

「ふふん、始めからそう言え」



ふぅと長く息を吐いたジェイドは、不安気な子供達を見た。

目を見開いて固まってしまったアッシュは今までになく年相応に見えるし、驚きすぎて口をぱかりと開けたままのルークも笑いを誘う。









『国のためには、ならないだろう。わかっている。わかっているが……俺はあいつらの願いを叶えたい。

帰りたくないところへ送りたくないんだ。それに、帰さない方がいいと言っている。俺の直感がな。

……笑うか、ジェイド?』









笑えなかった。今はただでさえ安定していないピオニーの地位を、さらに脅かす原因になり得る2人だと理解していても、

……根底には同じような思いがあると自分で知っている。





「おいおい、驚くのはわからんでもないが、そろそろ戻ってきてくれ。続きを話そう」

「え、あ……なんだっけ……?」

「まだ問題があるって話だ。アッシュ、お前たちをここに連れてくるために作った話は何だった?」



アッシュは内心で首を傾げた。それとこれに何の関係があるのだろうと思ったからだが、それには触れず答える。



「絶えた貴族の血を引く可能性がある双子、です」

「そうだな。思いのほかその作戦は上手く行ったんだが……いざ適当な絶えた貴族を探すとあんまり選択肢がないことに気付いてなー……」

「……貴族の血なんて引いてない、ただの子供だったーーじゃダメなのか?」



ルークが心底不思議そうに呟いた。

アッシュもこの話は城に入るためだけのことだと考えていたから、そこまで本気で該当する貴族を探しているとは思いもしなかった。



「そうなんだがな、俺はこの考えが気に入ったんだ。お前たちがマルクトで隠れて暮らさなくてもいいようにしたいし……。

自覚がないようだから言っておくがお前たち、平民のフリして暮らしてたら、いつか必ずバレるぞ。どう考えても無理がある。

それに俺自身がアッシュとルークに会いたいからな。貴族の身分は持っていてもらわないと。

すでに一門が絶えていて、比較的怪しまれないのは……ガルディオスという貴族しかない。断絶して12年程でだいたいお前らの年と」



「駄目だ……!」



アッシュが唸るように遮った。







「ガルディオスは……駄目です」





「アッシュ……?」







机の下でアッシュの手が色が変わる程に強く握られていた。



















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ピオニーの戴冠が少し早まりました。
ルークがいることによって、預言が少し乱れ始めます。
強制力があるので、大幅には変わらないのですが……。




2013、2・23 UP