『次に来る時に、お前をここから連れ出す。準備をしておいてくれ』
それが今日なのだと、なんとなく予感がした。
前回アッシュと会ってから2ヶ月経つ。
その間に俺はできるだけ『俺』になってからのものを片付けていた。
周りに怪しまれない程度にだったので、さほど物が減ったわけではないけれど、
できるだけ残していきたくなかったんだ。
旅の準備なんてそれこそ怪しまれてしまうからそれは全てアッシュまかせだ。
だから、アッシュの言った準備っていうのは持っていきたいものを選んでおけということ。
それと――心の準備。
俺はアッシュが大好き。
だからアッシュと一緒にいたいってずっと思ってた。
いつかここから連れだしてくれるって知っていたし、早くその日がくるのを待ってた。
そして、やっと、アッシュと一緒にいられるようになるって聞いて嬉しかった。
なのに、いざその日になると少し寂しいような苦しいような……変な気分になる。
……なんで、かな。
「……ルーク」
「アッシュ……!」
ぱっと立ち上がってぶつかるようにアッシュに抱きつく。
「準備はできたか」
あ、まただ。なんだろうこの気持ち。
「ん……できた。持ってくのは日記とアッシュから貰ったものだけ」
「そうか。……ルーク、怖いか?」
少し俯いた俺にアッシュが静かに聞いてくるけど、それに首を振った。
そうしたらアッシュの手が頬っぺたに添えられたから、そっと顔を上げる。
「無理しなくていい。お前にとってはここが世界の全てだったはずだ。怖いのはあたりまえなんだ。ルーク」
怖いのは、あたりまえ……。
そっか、あたりまえなんだ。
そう思うと、ふっと気持ちが軽くなった。
「ほんとは、本当は、ちょっと……怖いし、なんでかよくわからないけど、寂しい。でもアッシュがせっかく連れて行ってくれるのに、ずっと待ってたのに、そんなの変だって思って。ごめん、アッシュ」
「謝るな。それは感じて当然なんだから。……どうする」
「え」
「もう少し、待つこともできる。お前を無理矢理連れていきたい訳じゃない」
それを聞いた時に直感的にダメだと思った。
こんな機会はそう何度もあるものじゃないし、これを逃したらアッシュといられなくなるかもしれない。
それだけは。
……それだけはイヤだ!
「ううん……今日行く。つれてって」
「……いいんだな」
こくりと頷く。
それにアッシュも頷いて窓から中庭に降り、そして俺に手を差し伸べて。
俺はその手をとった。
――さようなら、俺の鳥籠。