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鳥籠にさようなら 13



「ルーク!?」
「ガ、イ……」

部屋の扉が開いて最初に見えたガイの顔は困惑に染まっていたが、部屋の中心に立っているルークを認めてみるみる驚きが広がっていき次いでくしゃりと顔を歪めたかと思うと駆け寄ってルークを抱きしめた。

「ルーク、ルーク……っ! 心配、したんだぞ……! どうしてこんな所に、いやそれよりも無事で良かった……!ルーク、怪我してないか? どこか変なところはないのか!?」
「ガイ……っ、ごめんガイ、おれ、おれ何も言ってなかったから、心配させた……! う、うぅ……ごめ……っ」

アッシュの話を聞いたから、どこか戸惑いながらガイを迎えたルークだったけれども久しぶりにガイの顔を見てそして痛い程の強い力で抱きしめられると、堪らなくなってぶわっと涙が溢れた。
ガイのシャツを掴んで、ごめん、を繰り返す。

「なにも謝ることなんかない。怖かっただろ、ルーク……」
「ちがっ、違うんだ! っおれ、俺はじぶんで……自分で出てきたんだっ! こ、こんな心配させるなんて……してく、れるなんてっ、おも、わなかっ……」



あとは言葉にならなくてただ泣いてしまい、ガイは訳が分からないだろうに、ただただ優しく背を撫で続けていた。





なぜ、ガルディオスが駄目なのか。
この問いに対してアッシュは貝のように口を閉ざしてしまい、ピオニーとジェイドは首を傾げた。
ルークもまたなぜこれほどアッシュが頑なに理由を明らかしないのかわからなかったが、それより握りしめられた掌が痛そうで悲しくなる。

そっと右手に触れるとアッシュの体は微かに動いた。
少しだけ力の緩んだ掌に自分の左手を無理やりぎゅっと滑り込ませる。これなら、どれだけ握ってもアッシュの手は痛くない。
アッシュの左手も同じようにしたいが、座っている体制では無理だった。

『アッシュ……』
『うん……』

すぐにアッシュの手は、ふわ、と柔らかい握り方に変わった。

アッシュは、優しい。
それがこんな所にも表れている。

『ガルディオス、は……』

ぽつり、と小さな声で。

『生き残りが……いる、から』

キムラスカで生きているから。



この言葉を聞いたピオニーは驚愕し『どこで!? いやそれより誰だ!? ……いや、しかし、そもそもホドは……いやいや、ちょっと待て……! ガルディオスだぞ!? それは、本当なのか……っ』と、あまりの反応にアッシュとルークが逆に驚かされた。
ピオニーの押しに負ける形でアッシュは重い口を開き、知らなかったその事実に今度はルークを驚愕させた。





「ガイ、ガイ、おれ、ガイに言ってなかったことが……い、いっぱい……あるんだ……っ」


涙声の上、胸元にぎゅうっと顔を押し付けていたためその声は籠っていたけれども、ガイはしっかりと聞きとって少し体を離した。
ルークの顔は涙で濡れていたが、その目が未だかつて見たことがないほど真剣にガイを見つめている。

「ルーク……?」
「ガ、イにも…あったんだな……全然、しらなかったけど、でも、それでも、おれは……ガイが好きだよ……」
「ルー……ク。まさか」


「お前が、ガイラルディア……か?」


突然掛けられた声にガイは顔を上げ愕然と目を見開く。

ルークの背後、衝立の向こうから2人の男が現れたからだ。うち1人はマルクト軍服を着用しているため勘違いのしようもない。




――マルクトに、知られてしまったのだ。己の本当の身分と、そして成そうとしていた怖ろしいことを。

そして、それをルークもまた知ってしまったのだと。

「ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。……ガルディオスの名を継ぐものとして、生きているのならば生存報告をすべきだったな。身分を示す物がなかった訳でもあるまいに。……まさか、キムラスカ・ランバルディアに身分を偽って潜伏していたとは思いもしなかった。……何か、言うことがあるか」

ルークの肩に置かれていた手が震えている。その手はスッとルークから離れて行く。

「……いいえ、ありません。今は存在しないといえ、ホドの領主としての義務を怠り、私怨に囚われていた私に……訴えられることなど……何一つ」
「私怨とは、キムラスカ……ファブレへの復讐か。狙いはルーク殿だな。よくもまぁ……随分と無茶をしたことだ」
「……っ」

全て、なにもかもを知られている。
そう思い知らされて世界がぐらりと揺れた心持ちがした。

目の前で事実を並べていく人物が誰なのか、なぜ知られたのか、そんな些細なことはどうでもいい。


(俺は、ここで……終わる)


歯を食いしばり、ぐっと目を瞑った。これが己のしてきたことの報いだ。
自分のどろりとした感情に抗えなかった故の。……近頃その思いは違うものへ昇華しつつあったが、始まりは復讐でしかない。
何を言ったところでその事実は変わらないのだ。

みっともなく、喚くことなどしない。
潔く裁かれることを、ガイは、ガイラルディアは選んだのだ。