「いきなりかよ! ちょ、アッシュ!! 何も作戦立ててねぇぞ!」
あわあわしつつ周囲の歓声にかきけされまいと声を張り上げる。
それに応えるようにアッシュも声を大きくした。
「ナタリアは後方で全体を見ろ! ガイ! てめぇはナタリアに奴らを近づけさせるな!」
「分かりましたわ!」
「了解」
それぞれ構える2人を見て「おっ俺は!?」とルークが声を上げる。
「お前と俺は遊撃だ!」
イコール勝手にしろってことか! とルークは笑う。
「わっもう来たぜ!」
「で、どうすんだよ。ロイドくん!」
既に走りだしての会話だ。
「いつも通り、だろ!」
しゃらんと剣を抜き放ち魔神剣・双牙を放つ。
そっくりな赤毛のうち、明るい髪色の方が横に飛んで避けた。
よけられることは分かっていたので特に驚かない。
あれはただの牽制だ。
「これを終わらせなければ帰れぬのだろうな」
淡々と言うクラトスがザッと音を立てて止まる。
詠唱するためだ。
それをちらりと横目で見てゼロスはそのまま走る。
コレットは開始と同時に詠唱しているし今は魔術より前衛に徹した方が良さそうだ。
「エンジェルフェザー!」
コレットの天使術が発動し相手に向かって光のリングが放たれた。
それを合図に皆が動く。
「よしっ行くぜ!」
明るい方の赤毛を相手にすることに決めた。さっき魔神剣・双牙を避けたあいつ。
純粋に戦ってみたい。
ふと何かくる、と感じてバックステップをすると先ほどまでいた所に雷が落ちてヒヤっとした。
いや、あれを一撃受けただけで沈むほど弱くはないつもりだが。
「ちっ」
髪色が濃い赤毛が舌打ちしているからあいつが放ったんだろう。
魔剣士か……。ゼロスに任せよう。
「アッシュっ! あの女の子背中に羽! ってか浮いてねぇ!?」
「集中しやがれ屑!」
相手の術が発動し地面の土が垂直に俺たちを狙ってくる。
それを辛くもよけると、土柱の向こうから人影が飛び出てきて――。
ガキィィン!
俺の剣と赤い服を着たやつの2本の剣が噛み合う。
微妙な力の加減でせり負けてしまいそうだ。
……こいつ、強い!
ちら、と周囲に目を走らすとアッシュは赤い髪の男(赤い髪!? なんでだ!)と対峙している。
ナタリアとガイは見えない……が、弓鳴りと剣戟の音が聞こえるから戦っているのだ。
「てめぇ、その髪色は何だ」
あ、やっぱり同じこと気になったんだ。
「何だって言われてもねぇ。俺さま自慢の髪に文句でもある訳?」
あ、やべ。アッシュのやつムカっときたぞ今の。
そう思いながら双剣を弾く。
バックステップするとアッシュと偶然背中合わせになった。
「お前らそっくりだなぁ。双子ってやつか?」
それを見て赤い服のやつが試合の最中とは思えないのんびりしたことを言い出したから、
ちょっと……いや、大分びっくりしてしまう。
「え、いや違うような違わないような……。アッシュは被験者で俺はレプリカで……」
うーん?
前エキシビジョンで戦った奴らはなんか世界が違うみたいだったけどこいつらはどうだろう。
やっぱりレプリカとか通じないんだろうか。
「レプリカ……? 何だそれ」
あ、やっぱり。
「ルーク! 何ぐだぐだしてんだ!」
やべ!アッシュに怒られた!
そろそろ真剣に試合しねぇと。
「ええと、い、行くぜ!」
「おぉ!」
俺が構えると双剣のやつも構えた。よしっやってやるぜ!
相手との距離を限りなく近くして崩襲脚を繰り出すが、かすっただけでよけられちまう。
こいつ、さっきも思ったけど動きが素早い。
おまけに双剣使いだから次々左右から攻撃が繰り出される。
「こっちも行くぜ!虎牙破斬!」
剣を斜めに構えて避けずにガードした。くっやっぱ強ぇな。
……多分、こいつは俺より早い。
避けても追撃されちまうってことくらい俺にだってわかる。
それなら……。
「驟雨双破斬!」
いっいてっ、手数多いっつーの! 痛ぇ。けど俺の打たれ強さなめんな!!
……今だ!
「閃光っ墜迅牙っ!!」
「……っ!」
相手の技が途切れるその瞬間を狙って動いた。
狙い通り避けきれなかった赤い服のやつを次の攻撃で吹っ飛ばす。
そいつはくるりと空中で体勢を立て直してストンと着地した。
「お前、ルークだっけ? なかなかやるなぁ!」
そう言って破顔する相手はなんだか凄く楽しそうだ。かくいう俺も楽しくて仕方ないんだけどな。
命を賭けるんじゃない、剣技を純粋に競うことが嬉しくて楽しくて。
「お前こそ!」
赤いやつが……いや今思えば俺も赤いんだけどさ。
っつーか赤い比率多くね?
「クラトス〜俺なんか凄い楽しいんだけどどうしよう!」
クラトスと呼ばれた人がガイと距離を取って(というか2人とも構えをといた。そりゃそうか気抜けるよな)
少し呆れたように口を開いたのが見えた。
「……どうもこうもあるまいに。だが相手に取って不足なしではあるが」
「そうだよな!」
アッシュと切り合っていた赤い髪のやつがいつの間にか赤い服のやつ(ややこしい!)の後ろに回り込んでいた。
マジで?い、いつのまに……!
「うんうん、ロイドくんが嬉しそうで俺さま何より〜」
「暑い重い戦闘中に抱き着くなゼロス!」
「その雰囲気をブチ壊したのはロイドくんでしょーよ」
「みんな強かったね〜」
え、唐突に終了!?
呆気にとられていたルークの周りにアッシュたちが集まってくる。
「いきなり終わりましたのね」
「あ、うん……?やっぱり終わったのかこれ」
「どちらの勝ちですの?」
「さぁ……」
曖昧な返事しかできない。というか実際勝負ついてないし答えようがないのだ。
なにやら和やかに話していた相手チームの体が光りだした。
自分たちの世界に戻る、のだろうか?
赤い服のやつがたたっと駆けてきた。なんだ?
「楽しかったぜ! 俺、ロイドっていうんだ。お前は?」
「え?あ、ルーク……」
にかっと笑うその顔は本当に楽しかったってことを表しているようだ。
「そっか、ルークか! また機会があったら手合わせしてくれよな! じゃーな!」
カっと一際眩しい光に思わず目を腕で覆う。
次に目を開けたとき、ロイドたちは姿かたちもなかった。
「あ……」
残念、という思いがぽかりと浮かぶ。
……残念?
そうか、俺はもう少し試合してみたかった、のか。
面白いヤツらだったな……。
「あー…なんだかよく分かんが、取り合えずルークの気が晴れたみたいで良かったよ」
そうガイが言いながらポンと頭に手を乗せてきた。
気が晴れる? 何言ってんだ?
「まぁ、やはり気付いていなかったのですわね。ルーク、あなた最近頑張りすぎでしたのよ?
自分が気を張っている時は気付かないものですから仕方ないのかもしれませんけれど」
ナタリアまでもよく分からないことを言ってくるからもう俺はただただポカンとするしかない。
何? 何どういうことだ?
確かに最近忙しくて倒れるように寝ては起きて……の繰り返しだったが。
「まさか……そのために?」
「えぇ。少しでもルークの気が紛れればとアッシュが提案したことですわ」
アッシュを見ると、聞こえていないはずないのにあらぬ方を見ていた。
じっと見つめていると無視し続けられなくなったのだろうアッシュが溜息に混ぜて呟いた。
「次からはこんなことしてやらねぇからな……自分のことぐらい把握しとけ」
分かりにくいその思いやりが嬉しい。
アッシュが俺のためを思ってしてくれたんだと思うと
なんだかとてもじゃないが、じっとなんてしていられなかった。
ありがとうアッシュ! 大好きだ!!
この思いが余すことなく伝わればいいのに!
そういう思いを込めてぎゅうぎゅう抱きつくとアッシュは困ったようしながらも
頭を軽く撫でてくれたから俺はもっともっとたまらなくなってしまったのだった。
アッシュ、大好きだ!
2009、9・25 UP