シンクと名乗る仮面の男――少年といった方が相応しいようだったが――に辛くも助けられ、レアバードというものに半ば無理矢理乗せられた。
……のだが―……。
「やろー…てめー…!何てことしてくれんだゴルァっ!」
「ア…アニス……!」
「ここがイオン様のお屋敷と知っての狼藉なの!?」
腰に手をあてて怒り心頭の様子の少女に見下ろされて、ルークはただただ座りこんだままぽかんとしていた。
よくわからない物で空を飛んだこと。
シルヴァラントからテセアラに来たこと。
空から真っ逆さまに転落して建物に突っ込んだこと。
それらのことを短時間で経験したせいで上手く頭が回転しない。
それに…。
「聞いてんのっ!?答えなさいよっ!!」
なんだ、コレ。
黄色い巨大な……なんだこれ?
どうやら少女の持ち物らしいそれは少女の怒りに連動して動いている。
腕(?)らしき部分がドスンと地面を叩いた。
「このお方はテセアラの神子、イオン様であらせられるのですよ!
そのイオン様のお屋敷をブッ壊すなんて!あんたたち何考えてんの!?」
「テセアラの……神子…?」
回転しなかった頭が急に回りだす。
そう、そうだ。
天使化してしまったティアを、人間に戻せるかもしれないってジェイドが……。
ジェイド、が――……?
「ルーク」
後ろから声をかけられた。
「ジェ、イド…」
「ここからは私にまかせて下さい」
有無を言わさずにっこり笑ったジェイドがルークを立たせ、後ろへと。
「無礼を致しました。私はジェイド・カーティスと申します」
「ジェイド…カーティス……。貴方が…」
テセアラの神子と少女が言っていた少年が驚きに目を見開く。
「えっ!?イオン様、お知り合いですか!?」
「いえ、知り合いという訳ではないのですが…」
「ぜひ陛下に取り次いで頂きたいのです。…勿論、私が本人かどうか確認して下さって構いません」
ルークにはよく分からないが、分からないなりにもとんでもないことを頼んでいる気がする。
「ガ、ガイ……」
「……ここは任せるしかないさ」
それは、そうなのだが。
「……陛下にお取り次ぎすればいいんですね?」
「イオン様!」
いきなりの乱入者に警戒心を抱くアニスは咎める声を出した。
「大丈夫です。アニス。……どうやらあの方は本人であるようですから」
「へっ?」
アニスにふんわり微笑み、ジェイドに向き直る。
「どうぞ、こちらへ」
「おー!ジェイド!!久しぶりだな!」
「お久しぶりです。陛下」
朗らかに笑う男の前で礼をとるジェイドの姿を絶句して穴が開く程見つめていたルークは、やっとのことで呟いた。
「な、なぁ…これどういうこと…?ジェイドって…?」
「そんなこと俺に聞くな…!んなことより静かにしてろルーク……」
ルークとガイの困惑など知ったことかとばかりに話はどんどん進んでいく。
「いやー本当に久しいな!10年ぶりくらいか?」
「はい。連絡もなく突然で申し訳ないのですが、シルヴァラントから客人を連れて参りました」
「ほう?」
玉座に座る男の視線がルーク、ガイそしてティアに向けられる。
「実は…」
「まぁ待て。まだ王女が来ていない」
「王女…ですか?」
いぶかしむようなジェイドの声色に破顔する。
「あぁ。いい娘だぞー」
すると丁度扉が開き、一人の少女が。
「お待たせ致しましたわ」
「……陛下のご息女様にしてはいささか成長なさっているようですが」
「おーそりゃそうだ!養女だからな!俺は結婚する気などないのはお前だって知っていただろう?
お前が行ってから引き取った。実にできた王女で助かってるぞ!」
自信満々に言い放ち、ふんぞり返るテセアラ王を見つめながらジェイドが思っていたことは、やはり独り身を通す気に変わりないのか、ということだった。
「あなたがジェイドですのね?お話はかねがね伺っています。そしてこちらの方々がシルヴァラントの……」
ふ、と視線を後ろにやり、実に優雅にドレスの裾を摘まむ。
「テセアラ王、ピオニーの娘、ナタリアと申します。時空の狭間を越え、お会いできたことを嬉しく思いますわ」
流麗な言葉と本当に嬉しそうな王女の表情に、ルークは嬉しいやら困惑するやらでぎごちない笑顔になってしまった。
そんなルークの様子を見るに見かねてイオンが一歩でる。
「陛下、彼らはシルヴァラントでの再生の旅で天使疾患を患ってしまったシルヴァラントの神子の治療のためにいらしたそうです」
「ふむ…。ジェイド、再生の旅は完了したのか?」
今までの軽い雰囲気をかなぐり捨てたように真面目な顔になる。
「えぇ。精霊を目覚めさせましたからマナはテセアラからシルヴァラントへと流れ始めています」
「では……テセアラはこれから衰退しはじめますの?」
「…いえ、しばらくは大丈夫でしょう。長い間、繁栄世界であり続けた余剰分があちらへと流れます」
「そうか…」
ふぅ、と短い息を吐き手を顎にあて何事かを考える王の前でジェイドは頭を垂れる。
「シルヴァラントの世界再生を阻む使命を果たせず、申し訳ありません」
「ジェイド…っ!?」
この発言がルークに与えた衝撃は大変なものだった。
ルークにとってジェイドは頼れる相手。
怪しい薬等を飲まされたこともあるが、それでも。
ティアにとっても、ジェイドに助言を求たりとかなり親しい相手だと言って間違いない。
そのジェイドが世界再生を阻もうとしていた?
そんな――そんなこと……!
足元がグラリと揺れる。
先ほどの光景が、フラッシュバックする。
「俺は、世界を預言によって導く最高機関ローレライ教団に属する者」
いやだ。
い、や……。
「神子の監視のため、差し向けられた『鮮血のアッシュ』だ」
アッシュ!!
傾ぐ体を支えたのは。
「ルーク。しっかりしなさい」
「ジェ………ド…。ジェイド、も、行っちまう、のか……?」
あいつのように。
「いいえ。話は最後まで聞くようにといつも言っているでしょう」
「……?」
ルークをガイに任せ、驚いたように目を見開いているテセアラ王に言う。
「生き物すべてが息絶える……。シルヴァラントはその一歩手前まで衰退していました。
実際再生をしなければ、そうなったでしょう。
片方の世界が完全に滅んだ前例はない。そこが問題なのです」
「何が起こるか分からない、か……。そうだな、こちらの世界が引き摺られないとも言い切れん」
ピオニーはニヤ、と口角を上げた。
「で。本音は?」
「この2つの世界には矛盾が多すぎる、と」
「出発する時に言ったはずだぞ。『お前が見て感じたことを優先しろ』とな」
周囲の人間は理解できかねたが、この2人にはこれで通じているらしい。
それに口を挟める雰囲気でも、ない。
しかし口を開いた人物が1人。
「陛下」
「なんだ?神子」
「最初にお話した天使疾患の治療の件なのですが…」
おお、凄い!話を元に戻した!!とガイは内心思った。
「どうか彼らがテセアラで治療方を探すことを認めていただけませんか。
……テセアラの神子である僕も同行したいと思っています」
「はぅあ!本気ですかイオン様ぁ〜!?」
「えぇ、アニス。僕にとっても他人事ではありませんから…」
何の感情も浮かばないティアの顔を痛ましげに見やる。
「そういうことでしたら私も同行しますわ!」
「「……は?」」
「おーいいぞ〜。行ってこい」
「「……え?」」
王女の言ったことにも驚いたが王の快諾にも驚いた。ガイとルークに至っては目が点だ。
「しばしお待ち下さいな。すぐに用意して参りますわ!」
「でしたら皆さん、僕の家でどうぞゆっくりして下さい」
あれよあれよという間に、仲間が、増えた。
アビスでシンフォその2。
オリジナルイオン…テセアラの神子、ヴァンにレプリカ情報を大量に抜かれ命を落とす。
テセアラの神子・イオン…イオンの代わりにテセアラの神子になったレプリカイオン。身体が弱い。
フローリアン…セレスポジション。レプリカイオンに何かあったときの為に教会に軟禁されている。
ジェイド…しいなポジション追加。10年前シルヴァラントに。
ピオニー…テセアラ王。10年前ナタリアを養女に迎える。
ナタリア…テセアラ王の養女。
2008 5・20 UP