a ray of hope ―10―
『我が半身達。我はもう行かなければならぬ』
はっとして二人はその姿を見る。
ゆらゆら揺れるローレライ。その体が透けていた。
『…幸福であれ』
ローレライはまるでそこには始めから何も存在しなかったようにふわりと立ち消えてしまった。
「……お前は消させねぇ」
回していた腕に力を入れる。そうだ、もう二度と。
「…うん…」
お互いに十分相手を確かめて体を離すとアッシュがなんとも言えない顔になった。
「先程から思ってたが…お前……」
「何だ?」
少し顔をそむけて低い声で。
「…服」
「服…?って、ぅわぁぁぁああっ!!なんでっ俺っ……服着てぬぇぇ〜…」
初めてその事実に気がついたルークは一気に赤くなってその場にしゃがみこんでしまうしかなかった。
いくら自分と同じアッシュの前でも、いや、むしろアッシュの前だからこそ猛烈に恥ずかしくて。
再び長くなった髪で全て隠れてしまえばいいのに!とか無茶なことを思いながらこれ以上ないほど小さくなった。
「ルークっ!!」
「みんな…!」
ティアが走りよってきて思いっきり抱きしめてくる。
「おかえりなさい……」
「おかえりなさいませ…!ルーク…!」
「おかえり…っ!」
「うん、ただいま!」
ティアとナタリア、アニスが泣きだしてしまったので3人が落ち着くまで待つ。
「あの、ティア…」
「?」
「なんか…服ないかな…」
ルークはアッシュの着ていた長めの上着を借りて、羽織っているだけの状態だった。
何も着ていないよりはマシだが、ずっとこのまま、というのも恥ずかしい。
「…!そうね、見てくるわ。待っていて」
女性陣は服を探しに行き、残ったのはガイとジェイド。
「よぉ、遅かったなルーク」
「ガイ」
頭をくしゃっと撫でられる。
「おかえり」
笑顔でそんなこと言われたら、何だか胸がいっぱいになって堪らなくなった。
小さい頃から―それこそ生まれた時から一緒にいた親友。
その手は酷く安心して、涙が零れそうになる。
隣のアッシュの服を掴むことでなんとかその衝動をやり過ごした。
そんなアッシュとルークの様子を見て。
「…その様子ですと自分の気持ちは整理できたようですね。でなければルークが居る道理がありませんから」
「……ふん」
「ガイ、ガイ。俺やっと分かった。アッシュが好きだって」
嬉しそうに本当に嬉しそうに。
「ガイはずっと分かってたんだな」
「あぁ。分かってたさ。ずっと前からな。でもお前自身で気付かなきゃ意味がないだろ?」
そう、この兄の様な親友はいつでも背中を押して、そして見守ってくれるのだった。
目の端で、アルビオールの入口で手を振るティアの姿を捕らえる。
服、あったのかな、と思いつつ歩きだした。
「ご主人様ぁぁぁあっ!!」
「っ!ミュウ…っ!」
アルビオールから降りた瞬間かなりの勢いで飛びつかれる。
「ご主人様!会いたかったですの、会いたかったですの!おかえりなさいですのーっ!」
大きな目を潤ませて一生懸命抱きついてくるミュウに少し驚きながらも、嬉しさの方が大きい。
ミュウはバチカルで留守番をしているとティアから聞いていたが、こんなに早く会えるとは。
「ただいま、ミュウ」
ふるふると小さな体を震わせてしがみつくミュウを優しく撫でた。
「みゅうぅぅぅ。ぼく嬉しいですの!パパさんとママさんも嬉しいですの!!」
「え……?」
ミュウの視線を辿る。
そこには。
「…父、上……母上…」
目を見開く。なんで、なんでこんな所に。
固まっていると肩に温もりを感じた。
「眼鏡が連絡したらしい。…行け」
背中をやんわりと押され前に出る。
両親との距離が、縮まる。
すると父は母の肩を軽く叩きそれを受けた母は少し前へ出た。
―あぁ、アッシュと父上はやっぱり親子だなぁ。
頭の片隅でそんなことを思う。
母との距離は更に縮まり手を伸ばせば届く距離に。
「た、だいま、戻りました」
少しつっかえながらの挨拶を聞いた母の目はみるみる潤んでいったが表情は穏やかだった。
白い手が伸びてそれに頭を抱えられる。
「母は待っていましたよ。…おかえりなさい。よく帰ってきてくれました」
二人のルーク・フォン・ファブレが帰還した日だった。
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もうちょっと…!
2007 7・18 UP