クラトスルートED後。ゼロスとロイドが過去で出会う話。









キィンと音がした。



「な……んだ?」



気がつくと崩れた救いの塔にいた。



「なんで……俺……」





呆然と辺りを見渡す。かすかに何か言い合うような、そんな声が聞こえた気がしてそちらにふらりと足を踏み出すと信じられないものが目に写った。

赤い髪。広がる橙色の羽――。





「…ゼ…ロス」





この手で命を奪った友がそこにいた。

なんで、どうして、俺は確かにあいつを……。





頭は真っ白なのに足が勝手に動く。





ゼロスと俺の間に入り込んで、双方の剣を受け止める。

ここは過ぎ去った時間…あぁ、過去なのだ、と唐突に理解する。過去を変えてはいけない、そんな思いがあるのに自分は何をしているのだろうか。



「な……っ」

「ロイド……!?」



過去の俺の剣を跳ね上げゼロスから離れさせた。



あぁ、俺、なにしてんだろう――。



過去の俺と仲間たちが呆然て俺を見る。それはそうだ。



「なんだお前……! クルシスのやつか! なんで俺に化けてんだ!」



ゼロスは何も言わない。……多分、驚いてる。でも怖くて振り返れない。





「違う……クルシスじゃない」





やはりと言うか当然というか、まったく同じ声に過去の俺の顔が更に歪む。

勢いで出てきたけれど、どうすればいいんだろう、なにも、言えない――。



「戦うな……戦わないでくれ」



そうだ、これだけは言わなきゃ……。



「た、のむ、から……」



俺の頬が変に熱い。なんだろう。なんでこんなに熱いんだろう。

頬に手をやって気付いた。とめどなく溢れる涙。そうか、俺は泣いているのか。乱暴に拭っても拭っても止まらない。



「あれ、なんで止まんねぇんだ……」



突然の俺の出現と行動に誰も何も言えず動けない中、見知った気配を背後に感じた。



「……お前はこの時の者ではないな」

「ク、ラトス……なんであんたが……。その通りだけどさ……」



俺の時、クラトスはここに現れなかった。俺が関わったことで出来事が変わってる?



「な……。てことは……ほんとに俺なのか…?」



皆、戸惑うように俺を見てくる。

俺は俺を見て震える声を絞り出した。こんなことしちゃいけないって分かってる。でも、それでも。



「お願いだ。お前も皆も……ゼロスも。戦わないでくれ。俺、俺は……」



この結果を知っている、なんて。

言っちゃいけない。

怖くて振り向けなかったゼロスを初めて正面から見る。



「ゼロス……こっちのお前に言うのは卑怯だと思う。でも言わせてくれ」

「……」



警戒と動揺がない交ぜになったゼロス。

あぁ、お前は本当にゼロス、なんだな……。

そう思うと込み上げてきたものが抑えられない。



「……ごめん、あのとき信じてやれなくてごめん。お前と、こんなことになるなんて、思わなかった……。

仲間だったのにゼロスのこと何も分かっちゃいなかった。もっとお前と話したかった。笑いたかった」

「ロイ、ド」



ゼロスの声、が、体に響く。

もう聞けないはずの声が。





一歩近づく。



ここからは過去の俺たちには聞かせたくない。ゼロスだけに聞こえればいい。

どうしたってクラトスには聞こえちまうだろうけど……。





「お前は、俺を……」

「……俺の…世界にお前は……いない」



それを聞くとゼロスはどこか自嘲するように笑う。



「それでいい。俺はそうなるよう行動したんだから。……いや、お前にそれを強要したんだ」

「……」

「ありがとな、ロイド」



俺はその瞬間体中の血が沸騰したかと思った。

ありえない。なんで礼なんて言うんだ。

なんでそんな満足そうなんだ。



「俺は、お前ともっと一緒にいたかったんだ。なのに、なんで、なんでお前を……俺、は……」



そこからは言葉になんてならなかった。

あぁ、これじゃゼロスは思い留まってくれやしない。このままじゃまた俺は。



「お前を苦しめたい訳じゃない。……忘れろ、ロイド」

「……え」

「こんな最低ヤローは忘れていいんだぜ」



そうしてゼロスは俺の横を通り抜ける。小さくごめん、と聞こえた気が、した。



「それでも落とし前はつけねぇとな……。邪魔すんなよ、天使サマ」



ハッとして振り向くと予想に違わずゼロスが剣を抜いて構えた所で、一気に体温が下がる。

ダメだ、なんで、なんで!



「構えろ、ロイド」



どこかで聞いた会話が(それはそうだ。俺はこのやり取りを知ってる)交わされるのを俺は聞きながら、まったく落ち着いてなんていられなかった。

でも体は動かない。口も。会話の意味は分かるのに、どこか違う世界の言葉みたいに聞こえる。



このままでは「俺」はゼロスを……。





ダメだやめろ。やめろ!







戦いが始まる。ゼロスの生きる時間が減っていく。





そう感じた瞬間、俺の体は飛び出していて。







「……っ!」

「な…っ!?」

「俺」の剣を剣で、ゼロスの剣は、背中で受けた。

そんなに深い傷ではない……と、思うが焼かれるような痛みで顔が歪む。





「……やめ、ろって」





みんな驚いたような顔をしている。



「おま……え」

「羽…!?」



あぁ、もしかして羽が出てるのか……。自分じゃうまくコントロールできないからな……。

仲間で血を流すのは俺で最後にして欲しい。





「俺」の剣を弾くと痛みで膝が崩れた。





倒れた俺の視界にクラトスの爪先が映ったと思ったら無言で俺の上半身を支えて、ファーストエイドをかけてくれた。

支えられた所が温かくてふいに泣きたくなる。

クラトスもまた、今は近くにいない人だ。

クラトスをぼんやり見上げる。つらそう、に見えた。





あぁほんと俺なにやってんだろう。

暖かい光が俺を癒してくれるものの思ったより深かったらしくて、完全には治らなかった。

クラトスが眉を寄せているのを見上げる。





「ロイドさん……」

「ロイドに…羽が……。なんで…?姉さん……」

「なんてこと……天使化してしまっているなんて…」





ぼんやりとその会話を聞く。

俺が多分、多分だけど天使化していることばらすつもりじゃなかったのに。

先生が近づいてきて膝をつく。

ヒールウィンドを唱えようとしているクラトスに「私がします」と制し、リザレクションをかけてくれるとようやく背中の痛みはなくなった。



「……ありがとな、先生」

クラトスに支えられながらもそう言うと先生はふわりと笑ってくれたが、その顔はなんだか悲しげだった。

多分俺がそんな顔をさせてる原因だ。



「まったく無茶をして……。どれぐらい未来の貴方かは分からないけれど後先考えない所は直っていなくてね。

……天使に、なってしまったの」



言いにくそうに聞いてくる。

少し逡巡したあと肯定する。

俺にも自分が完全に天使かどうか分からないけど、一応天使化したことには変わりない。



「これがきっかけで天使化してしまったと……考えてよろしい?」

「え……それは……どうなんだろう?」



ゼロスとのことだけじゃない、とは思うが。

色んなことがあったからどれでもないし、どれでもある。



「どちらにしてもこの戦いの結果は貴方にも……ゼロスにも良いことにはならないということね」



ビクリと俺の体が揺れる。ヤバい。露骨すぎだろ俺。そんな俺にリフィル先生は静かに口を開いた。



「隠さなくてよくてよ、ロイド。……隠し事が苦手なのも直ってなくてね」

「リフィル先生……」

「あなたの反応と行動、それに加えて天使化。大体のことは察しがつきます。……ゼロスのこともね」



体が揺れて指先が小刻みに震える。



「よくわかんねーよ。先生!」



過去の俺が叫ぶ。

もし俺があの立場だったら頭が爆発しそうに混乱しているだろうからその気持ちが手に取るように分かる。



「はっきり言ってくれよ。何がどういうことなんだ?」

「……。ここで戦えばゼロスが死ぬということよ」

時間が止まったような錯覚に陥ったのは俺だけではない。みんな聞いたことが信じられなくて固まっている。



「……いいんだよ。それで」



沈黙を破ったのは死ぬと言われたその人。



「その方がいいんだ。味方面して敵に情報流したりする裏切りものはそれが当然だろうよ。

……俺がいなくなればセレスが神子になれる。そうしたらあいつも幸せに――」



そこまで言ってゼロスは口を閉じた。というか「俺」に殴られていた。



「馬っ鹿野郎……!」

「ロ、イド」

「大馬鹿野郎! 馬鹿ゼロス!! そんなんセレスが喜ぶと思ってんのかよ!

誰がそれで幸せになるんだよ! お前、お前が、いなくなって!」





ゼロスは何も言わない。





「裏切りには制裁がいるでしょーよ」

「それなら! 今! 力いっぱい殴ったこれでチャラだ!! わかったな、俺はお前と戦ってなんてやらねぇからな!!」





そう宣言して、剣を納め背中を向ける。





「ちょ、待て、ロイド。そりゃねえって」

「待たない戦わない!お前は仲間だ!」



振り返ってギっと睨まれたゼロスは呆気にとられていた。

そして右手で顔を覆う。



「ありえねー……」



そのまま佇むゼロスからはもう、戦意を感じない。

憤然とした様子で「俺」が近付いてくる。

ほぼ1人分の距離を開け向かい合う。





「……お前のとこにゼロスはいないのか」

「……いない。ここで、俺、が……」



そう返すと少し顔を歪め、悲しげに視線を逃がす。それは俺がやりきれない時にする動作だった。



「俺が信じていれば」

「俺たちが、だ。俺もゼロスを信じきれなかった。……ありがとな、ゼロスがここにいるのはあんたのお陰だ」



過去の自分に礼を言われるのはなんだか妙な気分だった。

お互いなんとなく何も言えなくて沈黙が続いたが俺はハッとした。

キィィンとどこかで聞いた音。

腰に下げた、剣が熱い。





……タイムリミット、か。





「時間みたいだ」

「え?あ、あぁ……」



最後にゼロスを見ようとそちらに向くと予想以上に近くにいて驚いた。

これが最後だ。

過去を変えては駄目だと、そう考えていたのに変えてしまった。

恐らく自分の時に戻ってもゼロスはいないだろう。過ぎ去ったことは変えられない。

でもこちらでは生きている。そんな未来があってもいいよな?



「ごめん、ゼロス。でも俺はお前と会えて……よかった。元気でな」

「……お前んとこの俺さまは多分、クルシスの輝石にとりこまれてるはずだ」



俺は肌身離さず持っているゼロスの輝石を取り出した。

「お前に……ちゃんと壊せよって言われた。何回も壊そうと思ったけど、できなかった。

たった1つゼロスが残したものだ。それに……」



砕こうと心に決めても、できなかった。

だってこの中には友が眠っているのだ。



「……かせ。代わりにこれ、やる」



ゼロスによって輝石が入れ変えられる。手のうえには同じで違う輝石がころりと転がった。



「ゼロス……?」

「俺の形見なんだろ。持つならそっちにしろ。……こっちの曰くつきは俺がケリをつける」



でも、それは。



「だ…だめだ! それはお前なんだぞ!?」

「だからでしょーよ。やりたくないことさせて……後始末までロイドにやらせて苦しめてるなんて……。

本当に救えねぇ野郎だぜ。…自分で、ケリつけてやる」



迷う。どうしたらいいんだ。あの輝石は俺が壊せと言われた、俺の行動の結果。

この手で奪ったゼロスのもの。

それを同じゼロスとはいえ渡してしまっては責任を放り投げたことと変わりないんじゃないだろうか。

でも、俺はどうしてもあれを壊すことができなくて、迷ってるうちにゼロスは輝石に取り込まれていくんだろうか。



「俺は……どうしたらいいんだ…。……ゼロス……」



目の前にいるゼロスじゃなく、倒してしまったゼロスへと呟いた。



















NEXT


救いがあるのかないのか微妙な続きがもう一話続きます。




2012、8・21 UP